09

 元気がないな、という心配そうな声に顔を上げるとルシウスが目の前に立っていた。こんなに近距離にいたというのに今の今まで気づかなかったことに驚きつつ笑みを浮かべてみせると余計に心配される。優しく声をかけてくれるルシウスに、無意識のうちに全てを話していた。ジェームズと付き合い始めたキッカケ、恋人になってから本気でジェームズを愛したこと――そして、ジェームズに新しいガールフレンドができたことを。頬を流れていく涙を止めることはできず、ルシウスの胸にすがる。

「ジェームズは、私が嫌いになってしまったの?」
「ちゃんと話し合ったわけではないのだろう? なにか誤解があるのかもしれない」
「……っ、でも、半年も連絡をとっていなくて、」
「ヘンリーが忙しいのを察して、控えているのではないのか?」
「でも……!」

「……ヘンリー、そんなに泣くくらいなら私と付き合わないか」

 私の手を握り締めてルシウスが言った言葉が信じられず目を見開くと、また一粒涙が零れ落ちた。その雫を指ですくったルシウスは、私の唇に己のものを重ねる。金縛りにあったかのように体が動かなくなり、そんな私を見たルシウスは困ったように笑う。そして、告白した。婚約者という枠組みをなしに、私を本気で愛していると。学生の頃から私だけを想い続けていたと。
 驚きすぎて開いた口が塞がらない。今までルシウスはそんな素振りをみせたことなどなかった。それに学生の頃のルシウスはリリーが好きだったんじゃ、と言うとルシウスは顔をしかめて否定をする。

「私が愛したことがあるのは、後にも先にもヘンリーだけだ」
「うそ……だって……」
「嘘は言わない。誓ってもいい」

 ルシウスの手が頬を包み込み、顔が近づいてくる。息をするのも忘れて彼の顔を見つめているも、唇が触れる寸前になって我に返り、ルシウスの胸を強く押す。ルシウスの息がかかった唇を手のひらで覆い、後ずさった。
 真剣な瞳をしているルシウスを信じられないわけではない。ルシウスが嫌いなわけでもない。ルシウスのことは、ずっと昔から好きだ。けれどそれ以上に――

「ジェームズ……」

 止まりかけていた涙が、頬を伝う。困ったように笑うルシウスが視界に映り、口を開こうとするとそれよりも早くルシウスは立ち去ってしまった。ルシウスの背中を見送り、腕に巻いている時計に視線を落とす。長い針は休憩時間の終わりを示していて、慌てて足を動かした。

150622
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