肌身はなしてはならぬもの

 見逃す代わりに道案内をしてくれないかと頼むと変な顔をされたが、それで帳消しになるならと、彼は二つ返事で引き受けてくれた。
 黒髪の彼の名前を、自己紹介されるまでもなく知っていたのは、異世界学を受講している生徒のうち一人が目の前の彼だからで、学年までは正確に覚えていないが、三年生か四年生であると記憶している。ブラックくんとファミリーネームを呼んでから、レギュラスくんと呼び直したのは、ジェームズくんとペアで部屋に乗り込んできたブラックくんを思い出したからでそれ以上の意味はない。
 レギュラスくんは、私の私室の位置は知らないらしく(新任の教師の部屋まで知らないのは当たり前かもしれない)リドルの私室の前まで間違いなく送ってくれたレギュラスくんを、リドルの部屋からそう離れていない私室に招くとまた変な顔をされたが、教師に逆らう気はないようで、口を一文字に結んだまま首を縦に振る。
 レギュラスくんを引き連れ自室に戻ると、椅子の背に引っかけてあるローブを手繰り寄せ、ローブのポケットから杖を取り出した。

「……あの、」
「うん?」
「杖を持たないで外出していたのですか? ……杖は肌身はなさず持っていた方がいいかと」
「うん……、そうですね、杖があれば迷子になることもなかったでしょうし。気をつけます」
「……なんとなく、予想はしていましたが、やはり迷子でしたか」

130411
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