不審な影の正体

 薄暗かった空が白み始めると、牡鹿は慌てたように走っていく。なくなった温もりを寂しく思いつつ立ち上がると、遠吠えのような声がした。もしかしたら獣がいるかもしれないと警戒して歩みを進め数分、茂みの奥から足音が聞こえてくる。大男が歩いているかのような足音は、ゆっくりと近づいてきて、熊のような影が視界に入り、勢いよく地面を蹴った。
 自分と同じ高さまで飛び上がり、右足で奇怪な生き物を蹴り飛ばし――そのときに気づいたのだが、今し方私が蹴り飛ばしたのは、異様に大きな、人間の男だ。重い音をたてて倒れた男は気絶しているらしく、出会い頭にいきなり蹴りを入れたのはまずかっただろうかと嫌な汗が流れる。

「大丈夫ですか……?」

 呼びかけにピクリとも反応が返ってくることはなく、頬を叩いても、男が目を覚ますことはない。彼をこのまま放置することは戸惑い、男の大きな腕を首に回し、担ぎ上げた。担ぎ上げるといっても男の巨大を女の私が抱えることはできず、足は引きずっている状態だが。あてもなく、目的もなく、森の中を歩き回る。ようやく森を抜けることはできたときには、すっかり辺りが明るくなっていて、開けた視界には見上げるほど大きな城がそびえ立っていた。

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