広がる不安 午後一番の授業は、自分の担任するクラスだった。本当ならこの時間、彼らは数学を受けるはずだったのだが、授業を入れ替えたため、午後一番の授業となったのだ。 「風紀委員の仕事してたんだって? おつかれー」 「ヘンリー先生の授業参観、楽しみにしてたから残念だったよ」 「でも、午後一が数学じゃなくなってラッキー」 口々に声をかけてくれる生徒に、笑みが浮かぶ。 保健の授業を早々に終わらせてしまい、残り時間は自習にし、お喋りを始めた数名を注意し、苦手な教科や好きな教科を勉強する生徒の手元を覗き込む。頭を抱えている生徒にアドバイスをし、順調そうな生徒を褒めて、あっという間に一時間は過ぎていった。 次の時間の準備をしていると、一人の女の子が目につく。笹川京子という名前を持つ彼女は笹川了平くんの妹で、私は彼女と、教師と生徒以上の関係ではない。また、ボスも彼女と特別仲がいい様子はなく、クラスメイト以上の関わりはないようだ。 ボスは笹川さんが好きで、彼女も、まんざらではない。それが私の知っているこの世界の常識だ。……正直、戸惑っていた。私が存在する時点で、ここが私の知っている世界でないことはわかっているが、ボスが彼女を好きになるのは、私がこの世界にくる前のことであるはずなのに、そこまで影響が及んでいるなんて。ぶるりと、身震いがした。 121217 次のページ# 目次/しおりを挟む [top] |