06 総悟の目を盗んで土方さんと逢い引きを重ねていたある日、体に異変が起きた。医師にはっきりと懐妊したと言われた時は驚いたが、薄々は気づいていたことで、お腹にいる子どもは間違いなく土方さんと私の愛の結晶だ。 自分のお腹に手を乗せ、これからのことを考える。土方さんに相談するのが一番だろうけど、なぜだかそんな気にはならず、誰にも妊娠を言えずにいた。お腹が目立ってくればわかってしまうというのに、誰にも妊娠を知られてはいけない気がしたのだ。――その予感が的中していることを知ったのは、数日後のことだった。 「姉上。僕、江戸に出ます」 笑顔で総悟は言った。近藤さんたちと江戸に行くと、間違いなくそう言ったのだ。恐らく、土方さんも行ってしまうのだろう。……お腹の子のことを知れば、彼の足枷になるかもしれない。土方さんの進みたい道を私が潰すなんてことはあってはならないことで、自分のお腹を撫でて決心する。この子は、私一人で育てよう。 「近藤さん、土方さん、今までお世話になりました。どうか総悟をよろしくお願いします」 深々と頭を下げると、近藤さんは困ったような顔をして、土方さんは難しい顔をした。それでもなにを言うでなく、みんなで足を揃え江戸を目指し出発する。 「いってらっしゃい」 一人、足を動かそうとしない総悟に声をかけると、彼は俯いていた顔を上げた。 「姉上……本当に来ないのですか?」 「ええ」 「僕……僕、知っていました。姉上と土方のこと。認めたくないけど、姉上が幸せだっていうなら、二人のことを応援します。だから……」 「……ふふ、そっか、バレてたのか。ごめんなさい、総悟に嫌われるのが怖くてどうしても言えなかったの」 「姉上を嫌いになんて、なりやせん」 「うん、ありがとう。……でも、やっぱり私は江戸に行けない。ついて行っても、足手まといになるから」 もう二度と会えなくなるかもしれない弟を抱き締め、それから彼の背中を押した。 「江戸で一旗上げるのでしょう? 立ち止まっては駄目よ」 何度も振り返ろうとする総悟を叱咤し、仲間の輪に入っていった総悟に手を振る。流れる涙は拭わずに、彼らの姿が見えなくなっても見送り続けた。 121123 次のページ# 目次/しおりを挟む [top] |