03

 自然が広がる庭を眺めることのできる縁側に腰を下ろし、重い息を吐き出す。――私の心臓はおかしくなったのかもしれない。突然鼓動が荒れ狂うときがあるのだ。
 医者にかかるお金はなく誰かに相談することもできずに胸を締め付ける苦しみに一人で思い悩んでいる時、総悟を迎えにきただろう土方さんが心配そうに声をかけてくれた。こう言っては失礼かもしれないが、土方さんが心配をしてくれるなんて思っていなかった私は驚き、また胸が高鳴る。

「心臓が、煩いんです。特に土方さんといると、顔まで熱くなります。病気でしょうか?」

 悩みを打ち明けると、土方さんは驚いたように目を見開いた後頬を赤くした。胸元を掴んでいる土方さんは、まるで私の症状と似ていて――ハッとして土方さんを見る。もしかしてこの病気は移るものなのかもしれない。慌てて土方さんから距離をとり、頭を下げる。

「ご、ごめんなさい! 私、この病気が伝染病だって知らなかったんです」

 せっかく親切にしてくれた土方さんの顔を見ることができず頭を下げたままでいると、いつの間にか私の目の前まで来た彼は私の頭に手を乗せる。ドキドキと胸は鼓動を刻み沸騰したかのように体が熱くなった。
 頬に手をあててなんとかやりすごそうとしていると、頭上で風を切る音がして頭に感じていた温もりが消える。温もりを名残惜しく感じている自分に首を傾げながら顔を上げると、茂みに頭から突っ込んでいる土方さんと刀を高々と掲げている総悟がいた。

「姉上、大丈夫ですか?」
「え、ええ。それより土方さんが……」
「アイツはああやって定期的に森と融合するんでさァ。心配いりやせん」

 たたた、と駆け寄ってきた総悟は私の頭からなにかを払った。葉っぱでもついていただろうかと首を傾げていると、軽い動作で総悟は私の隣に座り顔を覗き込んでくる。総悟と目が合い表情を緩めるも、病気のことを思い出し慌てて総悟から離れた。
 不審そうな顔をする総悟に説明をしていると、額に青筋を浮かべた土方さんが総悟の頭を叩く。驚いて目を瞬く私をよそに二人は掴み合いの喧嘩を始めた。

「二人とも、どうしたの?」

 騒ぎが静まるまで眺め、地面に転がる二人の間にしゃがみこむと二人は揃って顔を逸らす。あまりに息のあった行動にクスクス笑っていると、ザリ、と遠くの方で砂利を踏む音が聞こえた。そこには近藤さんが立っていて、近藤さんは私、総悟、土方さんの順に視線を巡らせると楽しそうに口端を吊り上げ、声を上げて笑い出す。
 青春、青春。そう言う近藤さんの真意がわからず首を傾げていると、近藤さんは総悟と土方さんの首根っこを掴み私に一礼をしてから去って行ってしまった。



 道場から帰ってきた総悟は不満そうな顔で私に抱きついてくる。なにか嫌なことでもあったのだろうかと優しく総悟の頭を撫でていると、総悟は捨てられた子犬のような目で私を見た。

「姉上、もう土方に近づかないでください」
「?」
「病気の原因はアイツです。だから……」
「総悟にそんな顔をされたら、頷かないわけにはいかないじゃない。わかったわ、もう土方さんとは会わないようにする」

 元々約束をして会ったことはないのだが、安心した表情をする総悟を見て笑みを零す。こんなに心配をしてくれる弟を持ててなんて幸せなのだろうか。そっと頬に手を添えて額にキスを落とした。

121115
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