02

 総悟と呼べば振り向いてくれるのが嬉しくて、何度も何度も名前を呼んだ。呆れながらも付き合ってくれる総悟と私はどちらが年上かわからない。
 縁側で二人きりの時間を総悟と過ごしていた。次から次へと溢れてくる笑みを抑えることなくクスクス笑っていると、見慣れない黒が視界に飛び込んでくる。腰までありそうな長い髪を結わえたその人物は腰に木刀を携えていて、迷うことなく総悟に手を伸ばす。――両手を広げて総悟の前に立ちはだかり、キッと睨みつけた。

「うちの総悟になにか用かしら?」
「……先輩のお姉さんですか? 近藤さんの道場で世話になってる者です。先輩を迎えにきました」
「……近藤さんのところの?」
「今日は姉上の体調がよくないんで休みやす」

 総悟の言葉の通り、私は昨日の夜から体調を崩していた。とは言っても起き上がっても平気な程度だし、今はだいぶ落ち着いている。私は大丈夫だからと総悟に道場に行くように促したのだが、総悟は頑として行く気がないようだ。
 困ったように頭を掻いている彼は土方さんといい、総悟より後に道場に入った人らしい。長い髪は剣を使うときに邪魔にならないのだろうかと首を傾げていると、土方さんと目が合った。獣のような鋭い瞳に思わず萎縮すると、総悟が宥めるように背を撫でる。これでは本当に、どちらが年上かわからない。

「なに姉上を睨んでんだ土方コノヤロー」
「睨んでないス。……今日は、来れないんですね?」
「そう言ってんだろうが」
「総悟、口が悪いわよ。それと、道場には行きなさい。私は大丈夫だもの」

 ね? と声をかけるも総悟は納得がいかないというように首を横に振る。私の腰に腕を回し膝に頭を乗せ、すっかり寛ぎモードに入った総悟の頭を撫でながら溜息を一つ。ふに、と頬をつついても総悟は気にした様子を見せずに私のお腹にすり寄る。……私の弟ってなんでこんなに可愛いのかしら。

「ねえ総悟、私も道場に行くわ。それならいいでしょ」
「姉上も? ……駄目です、あんなむさ苦しいところに姉上をおいておけやしません」
「頑張ってる総悟を見たいのよ。駄目かしら?」

 そう言うと総悟は口を一文字に引き結び、ほんのりと頬をピンク色にする。そんなに俺を見たいなら、と最終的に折れた総悟は上機嫌に私の手を引き道場までの道をたどった。半歩後ろを歩く土方さんに目を向けると、また目が合う。お互いすぐに顔を逸らすも、知らずうちに総悟の手を強く握り締めていたらしく不思議そうな顔をした総悟が私を見る。総悟の顔を見ると気が緩み、顔が綻んだ。

「総悟、頑張ってね」
「当たり前でさァ」
「土方さんも頑張ってください」
「…………ああ」

 一見素っ気ない返事だが、くしゃりと髪を掻き上げた土方さんは少し戸惑っている様子だった。もしかしたら女に慣れないのかもしれない、と勝手に憶測をして緩く笑うと、面白くなさそうな顔をした総悟が私の手を引く。
 いつの間にか道場の目の前まで来ていたらしく、中から響いてくる勇ましい声に顔を上げる。ガラリと音を立てて道場に足を踏み込む総悟に続き中に入り頭を下げ、事情を簡単に説明するとあっさりと見学の許可をいただいた。
 用意してくれた座布団に頭を下げ、道場の隅におとなしく座る。総悟たちはしっかりと素振りをした後、簡単に刀を交えた。気合いの入った総悟にクスクス笑い、ふと彼とは反対側で同じことをしている土方さんが目に入る。足を踏み込み刀を振るう土方さんの目はとても真剣で、思わず唾を飲み込んだ。ドクリ、と心臓が強く脈打った。

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