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 キャバクラで働くようになってから三ヶ月が経った。途中一ヶ月病で来れなかったこともあったのだが、店は私を首にするどころかお給料を上げてくれ(昇給してくれたのだと思っていたが、たんに指名が増えたのでお給料が上がっただけらしい)、少しだけ生活に余裕ができた。
 なぜ無断長期欠席をする私が首にならないかというと、私の病のことが客の中で噂になり“眠り姫”見たさに私を指名する人が増えたらしい。これを怪我の功名とでもいうのだろうか。

「眠り姫、また指名だよ」
「はい、今行きます」

 ボーイの指差した席に向かおうとして、足が止まる。

「土方さん……?」

 キャバクラが似合わない後ろ姿に首を傾げるも、ボーイに急かされ慌てて彼の座る席に向かう。いつものように挨拶をし、いつものように笑顔を浮かべ、いつものように――上手くいかなかった。こちらを向いた土方さんを控え目にうかがうと、土方さんは煙草を差し出して火をつけるように促す。帯の中に詰めてある仕事用のライターで火をつけると、土方さんと視線がぶつかる。

「こんなとこで働いてやがったのか」
「ええと……」
「眠り姫、随分と噂になってるぜ」

 白い煙を吐き出した土方さんにお冷やを作りながら眉を下げる。

「いなくなったことについては、なにも言わないんですね」
「……言って欲しいのか」
「いいえ。きっと総太が全てを理解してあなたたちに伝えてくれているもの」

 カランと氷が涼しげな音をたてるグラスを土方さんの前に置いて腰掛けているソファーに座り直す。お酒を注文せずにグラスをあおる土方さんの眉間に皺が寄り、それを指摘するとますます皺が深くなった。

「ここになんのご用だったんですか?」
「俺がキャバクラに来たら悪いか」
「悪いです。総太に悪影響が出たらどうするんですか」
「近藤さんはよくここに通ってるぜ」
「…………」

 自分の分のお冷やを口元に運びながら視線を逸らす。

「指名したのだから、一杯くらいお酒を頼んでください」

 返す言葉を探すのが面倒になりそう言うと、土方さんはカクテルを注文する。土方さん自身が飲むのではなく、私のために頼んだらしい。
 遠慮なくお酒を口に運ぶ私を見て少し表情を緩めた土方さんは、それ以上なにを言うでもなく帰っていった。後ろ姿をいつまでも見送っていたのは、まだ私が彼を好きだということなのだろうか。

130114
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