09

 目が覚めると体が軋み、目の前にはつい先ほど別れたはずの銀時さんがいた。上手く状況を理解できずにいると、私が起きたことに気づいた銀時さんが説明をしてくれる。ここは病院で、私は一週間眠り続けていたと聞かされていくうちに、少しずつ思い出していく。
 あの日銀時さんと別れた後、総悟と屯所に寄るはずだった。総太に別れの挨拶をするためだ。けれど屯所に着く前に病に負けた私はその場で倒れてしまい――自分の情けなさに呆れて眉を下げ、迷惑をかけてしまった銀時さんに深くお詫びする。

「気にすんな。それより、随分厄介な病気にかかってるみたいだな」
「ええ……何日も眠り続ける病気なんて、おとぎ話みたいですよね」

 私は自分の病を“眠り病”と呼んでいる。いつ眠りにつくのかもいつ目覚めるのかもわからないこの病を治す方法は発見されておらず、医師に治る見込みはないと断言されていた。
 病を悲観することなく向き合う決意をしたのは半年前で、総太を育て続けることが無理だと思ったのもその頃だ。
 不定期に長期間眠りにつく私がきちんとした職につけるはずはなく、勤めていた喫茶店は辞め、収入源は総悟からの仕送りだけとなり(仕送りなんていらないと言ったけれど、総悟は毎月お金を送ってきた)、とてもじゃないが子ども一人を養うだけのお金を工面することはできなかった。それになにより、私が眠っている間、総太の面倒をみることができない。
 一週間ならばいい方で、一ヶ月以上眠り続けることもある。周りの協力もあり今まではなんとかやってこれたが、幼い総太にこの不安定な生活状況は悪影響でしかないだろう。

「総一郎くんも総次郎くんも、ヘンリーを心配してたぜ。早く元気な顔見せて安心させてやんな」
「ええ。本当にありがとうございました」

 頭を下げると銀時さんの手が頭に乗った。パチリと瞬きをすると、銀時さんと視線が絡み合う。読めない表情をしている銀時さんは私の髪をくしゃりと撫でて、それから名刺を差し出した。なにかあったらここに連絡しな、と言って去っていく銀時さんと入れ違いで総悟と総太が病室に駆け込んでくる。
 必死な表情で私の名前を呼ぶ二人に微笑みかけると気が抜けたように彼らはその場に座り込み、大丈夫かと二人に声をかけようとしたとき、もう一人の人物が病室に姿を現した。

「……そんなに睨むな。俺はこの二人のお守りだ」
「に、睨んでません。少し驚いただけです」

 病院だというのに構わず煙草をふかしているのは間違いなく土方さんで、思わず凝視していた目を逸らす。久しぶりの再会だというのに感動もなにもなく、見知らぬ人がそこに立っているようで少しだけ怖かった。

「すみません姉上。土方のヤローは今すぐ退治します」
「母上! お体は大丈夫ですか?」

 土方さんにバズーカを向ける総悟と、私に縋る総太の目の下には隈がある。そのことをとても申し訳なく感じ、眉が下がった。――やっぱり、私はここにいては駄目だ。

「二人とも、心配かけてごめんなさい。……総太、おいで」

 ベッドの上に総太を抱き上げ、額にキスをする。

「新選組のみなさんにご迷惑かけてない? お世話になるだけじゃなくて、お手伝いもするのよ」
「母上……」

 もう一度、今度は鼻先にキスをしてから、総悟を手招く。

「総悟、あなたは少しやんちゃしているみたいね。新聞に載ってるの、何度も見たわよ」
「……ごめんなさい」
「ふふ、しょうがない子ね。総悟には総太の見本になってもらわなくちゃいけないのに」

 枕元に来た総悟の髪をさらりと撫で、少し背を伸ばして頬にキスをする。顔を赤くした総悟にクスクス笑い、総太とまとめて抱き締めた。

「総悟、総太……二人とも、大好きよ。それだけは忘れないでね」

121203
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