08 一人は歌い手、一人は踊り子だった。キョとキャは男女の双子で、彼らは金の絹で織られた魔法アイテムを所持している。 新たな拠点を求め移動している私たちを綺麗な歌声が包み込む。楽しそうに歌っているのはキョで、合わせるように踊っているのがキャである。笑みを零して二人の様子を眺めていると、キョと視線が絡む。私と目が合った途端キョは口を閉じ、睨みをきかせた。 「もー、お兄ちゃんったらヘンリーさまを睨んだら、めっ」 「あんなやつに“さま”をつける必要ねーだろ」 「ヘンリーさまはお姫さまだからヘンリーさまなのよ。ね、ヘンリーさま!」 キラキラと輝かしい笑みを向けるキャはとても可愛らしく思わず抱擁をするとキョの跳び蹴りを食らった。自業自得だというように呆れた顔をしているリャンに八つ当たりをすると倍返しにされますますへこむ。 見下してくるキョと慰めるように頭を撫でてくれるキャの顔は瓜二つだが、正反対の対応に本当に双子なのかと疑っていると、それが表情に表れたのかまたキョに跳び蹴りを受けた。 一人は天才だった。頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、そして、フェミニストなリュックは性格もよく、彼には特別な武器など必要ない。唯一の弱点を挙げるとすればナルシストなところだろうか。 一人は天才だった。頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、そして、寡黙なザコバは少しとっつきにくいところもあるがその忠誠心はなによりも信頼できる。彼にもまた、特別な武器は必要ない。 二人の天才の大きな相違点は、生まれだろうか。金持ちの家に生まれたリュックとは違い、ザコバは飢餓と戦いながら生きてきた。 「ヘンリーちゃん、大丈夫?」 「いたた……ありがとうリュック」 「ヘンリー、血が出ている」 差し出されたリュックの手を取ろうとしたのだがその前にザコバに腕を掴まれ膝の傷を指摘される。たいしたことのない傷だったので軽く払って放置しようとするとザコバにもリュックにも、リャンにまで怒られた。リャンに普段負わされる傷の方が酷いという反論を飲み込み(凄い勢いで三人に睨まれ、怖かった)、フルルに頼み傷を手当てしてもらう。 一人はただの女の子だった。酷い傷と飢餓で命を終えようとしているフルルに使った治癒の魔法具を彼女は所持している。所持、というより魔法具が彼女の中に溶け込んでしまったのであった。能力を使わないようにという私の言いつけを守るフルルは、傷を水で洗ってから包帯を巻いてくれ、慣れないながらも一生懸命役に立とうと奮闘するフルルに顔の筋肉が緩む。 「ヘンリー、痛くない?」 「ええ、ありがとう」 お世辞にも綺麗とはいえないが心のこもった治療にお礼を言い立ち上がる。私の手当てをするために足を止めていたみんなが腰を上げるのを確認してからクジョウを先頭に再び私たちは足を進め、それから三日してようやく目的の場所にたどり着いた。 石造りの家が一つあるだけで、一面原っぱしかないその場所は、まさに私の求めていたものであった。ここに家を建て、人を集い、国を作る――まるで絵空事のようだが、成し遂げる自信はあるし、根拠もある。 私の考えに賛同し、また、私自身を慕ってこの場までついてきてくれた仲間を見渡す。十三人の仲間とリャン、そして私ならば不可能なんてない気がし、それは空想でも過信でもない。 「クジョウ、ここの権利は誰にある?」 「近くの地主だ。だが“不運”にも地主は亡くなり、偶然権利書は俺の手に」 懐から厚みのある紙を取り出したクジョウの言葉に呆れつつ、それに目を通すと確かにここら一帯の権利書であることが確認できた。――ここから“レボリューション”の歴史は動き出す。 120802 次のページ# 目次/しおりを挟む [top] |