09 荷車いっぱいに商品を詰め込んだ商人が楽しげに鼻を鳴らしている。怪訝そうな顔で商人に話しかけたのは、商人仲間のゲンであった。 いつもは仕事を面倒くさそうにこなしていたお前が、なにをそんなに楽しそうにしているのだ? そう問いかるゲンに、明るい声で商人は答える。 「これから、レボリューションに行くのさ! いやあ、あそこはいいね。とても平和で、嫌なことを全部忘れちまえる」 恍惚とした表情でのたまった商人は、ゲンの顔が満足そうに歪んだことに気づくことはなかった。 遠出をしていたゲンが帰ってきたのは三ヶ月ぶりで、最年長の彼を仲間たちみんなで迎える。ゲンに土産話をせがむカシンはすっかり言葉を習得していて、長い年月を彼らとともに過ごしているのだと改めて実感した。(カシンはとても物覚えが悪かった) 「カシン、土産話は待たれよ。ヘンリー殿に報告を……」 「ゲン、レボリューションの国王はフーマよ。フーマに報告するべきだわ」 風の魔と書いてふうまと読む、レボリューションの国王、フーマに視線を向けると、彼は促されるように前に出る。上等な衣服を身にまとったフーマは窮屈そうに身をよじってからゲンに報告を促す。 ゲンの話に耳を傾けながら、私は決意を固めていた。レボリューションが国と認められてからまだほんの一年しか経っていないが、そろそろ行動を起こすべきだろう。 「戦争を、起こそう」 そう言った私の声は決して大きなものではなかったが、それまでざわめいていた部屋は静まり返った。 「明日、国民を集めて発表する。フーマ、いいね?」 国王にこんな物言いをして許されるはずなどないのに、フーマはこれっぽっちも気にした様子を見せずに首を縦に振る。それを確認した私は少しだけ安堵し、集会の準備をクジョウに全て任せ十五人が固まっていた部屋を抜け出す。 当然のように私の後をついてくるリャンに表情はないが、彼が私を心配してくれているのが気配で伝わってくる。 「ヘンリーさま、」 「ヘンリーでいいと言ったはずよ、リャン」 「……なにを悩んでいるのですか?」 「戦争を起こすためにレボリューションを作ったというのに、レボリューションは戦争とはかけ離れた穏やかな国となった。戦争なんて、止めた方がいいのかしら」 「迷いがあるなら、止めた方がいいでしょう」 「迷いはあるわ……ありすぎる。でも、戦争を止めてしまったら、私はなんのために生きている?」 無条件に信頼し、死んでいったお母様の分まで愛してくれたお父様に刃を向けられたときから、自分がおかしくなったことには気づいていた。そんな私を増長させたのがジュダルで、戦争を起こすことこそが自分の使命だと思い込んでしまった私には戦争を止めるという決断を下すことはできないだろう。 「戦争を起こすこと以外に、私の存在意義はない。だから止めることなんて……」 「レボリューションの手足となり、国を栄えるために動いてみてはどうですか?」 「っ……」 リャンの言葉を聞けば聞くほど喉が痙攣したかのように動かなくなり、呼吸もままならなくなる。……リャンは、私に戦争を止めて欲しいの? ううん、彼は始めから戦争に乗り気ではなかった。もしかしたら、十三人の仲間たちもそうなのかも……私が戦争と口にしたときのみんなの顔の強張りを思い出し、ますます呼吸が乱れる。あまりの苦しさに、喉を引っかいた。 120807 次のページ# 目次/しおりを挟む [top] |