03

 ゼェハァと肩で息をする私の目の前に馬鹿でかい精霊のようなものが現れたかと思うと、カツンカツンと音を立てて二つの人影が姿を現した。一方は愉快だと言わんばかりに口元に笑みをたずさえ、一方は口を一文字に結び不愉快だと言わんばかりに顔を逸らしている。一瞬新たな敵かとも思ったが、それがジュダルとリャンだということに気づくのに時間はかからなかった。
 なぜ二人がここにいるのだと疑問を口にしようとすると、それより早く精霊――ジンの声が響く。

「マギ、この娘で間違いないな?」
「ああ」
「では、ダンジョンクリアを認めよう」

 ジュダルとジンが話を進める横で相変わらず不機嫌そうな顔をしているリャンが歩み寄ってくる。よくも私一人をダンジョンに突き落としたなだとかなんでここにいるのだとか言いたいことはたくさんあったが、それよりもまず始めにリャンに飛びついた。幼少の頃から滅多に離れることのなかったリャンと会えなかったことが寂しかったのか、単に誰かがいないことが心細かったのか、リャンの温もりがとても私を安心させる。
 暫くなすがままにされていたリャンだが痺れを切らしたのか私の頭を鷲掴みギリギリと締め付け始め、痛みに涙を浮かべてギブアップをしてもリャンが離してくれることはない。

「どうやらダンジョンを攻略できたようですね。では、城に戻りましょう」
「ちょ……その前に手を離して!」
「ああ、すみません」

 今気づいたというようにわざとらしく驚いた顔をしたリャンを睨みつけているといつの間にか隣にやってきたジュダルが「ほら、ジンの金属器」と笑顔でなにかを投げ渡してきた。手にしたそれは二つの丸いレンズから成り立つ繊細な造りの眼鏡であり、細いフレームを摘み顔にかけると世界が一変する。

「す、凄いわ、これ……」
「眼鏡、似合いませんね」
「うるさいわよリャン! ……ジンを欲しがる人の気持ちがよくわかるわ」

 感動に水を差すリャンをあしらいジュダルに向き合うと、ジュダルは背中で手を組みながら私の顔を覗き込んでくる。にんまりと笑い「気に入った?」というジュダルに頷くとこの近くにまだ攻略されていないダンジョンがあるから行かないかと誘われ、魅力的なお誘いにうっかり頷きかけたとこでリャンが割り込んだ。しかめ面をしているリャンを見て、そういえば私は城を抜け出してきたのだということを思い出し、そろそろ戻らなければ脱走がバレてしまうと残念ながらジュダルの申し出は断った。ジュダルは少し面白くなさそうな顔をしたがすぐにまたにこやかに笑い「なら、また」と手を振って見送ってくれる。

「で、そのジンにはどんな摩訶不思議が?」
「ヒ、ミ、ツ」
「………………うざ」
「ボソッと言われると傷つくんだけど」

 私から距離を置こうとしているリャンの腕を掴み、腰袋に入れておいた指輪をリャンの右手中指に嵌めさせる。この指輪はダンジョンで発見した魔法アイテムであり、間違いなくこれから先リャンの手助けとなるだろう。リャンの手助けになるということは、私の手助けになるということでもある。
 勝手に嵌められたことが気に入らないのかしきりに指輪を眺めるリャンに「外したら駄目」と注意し、我が家である城を目指して歩を進めた。

120709
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