02

 リャンは、生まれたときから私の奴隷で、お互いが死ぬまでその関係が崩れることはないだろう。

 小さいながらも一つの国を纏める王を父に持つ私には何人もの奴隷が与えられ、その中で常に行動を共にしてるのがリャンであった。彼の武力は国で二番目に優れていて、小さい頃から護衛をしてくれている。
 私が好きだと言った、血のように深い赤色をした髪を腰まで伸ばしたリャンは、黒いゴムで長髪を束ねていた。風になびく髪が太陽の光に照らされ輝き、うっとりとそれを眺めているとリャンに不審そうな顔をされる。少し視線をずらしてかち合ったリャンの瞳は髪と同じ赤色をしているが、瞳の赤は炎のように真っ赤であり、これが宝石だとしたらさぞ美しいのではないだろうかと常々思う。

「ヘンリーさま、さっきから俺をじっと見てどうしたんですか? 正直、気持ち悪いです」

 唇を最小限に動かしてそう言ったリャンは戸惑いなく私目掛けて目潰しをしてきた。顔を反らして攻撃を避け、続けざまに蹴ろうとしてくるリャンの足をジャンプで回避する。
 それなりに素早くキレのある攻撃だったにも関わらず掠りもしなかったことが不満なのか、むくれたリャンは顔をしかめて視線を前に移す。次にリャンの視界に映ったのはジュダルであり、楽しげにダンジョンまでの案内をしているジュダルから距離を開けて歩いているリャンはジュダルが好きではないらしい。

「面白くなさそうな顔をしているね、リャン」
「ヘンリーさまのようにホイホイ他人を信じる性分じゃないもんで」
「心配いらないよ、リャン。いざとなったら逃げればいい」
「…………はあ」

 私の顔を見てあからさまに溜息を吐いたリャンはまた面倒事が始まるとでもいうように視線を遠くに飛ばし、私とジュダルを視界から遮断した。
 リャンという話し相手がいなくなったのは少し寂しいが別段困ることはなく上唇と下唇をくっつけたまま歩いていたが、不意に現れた大きな建物に目を輝かせ両足で飛び上がる。あれがダンジョンだろうか? 私の期待が伝わったのかジュダルが振り返って建物を指差す。ダンジョン、と確かに動いたジュダルの口にもう一度飛び上がってリャンの名前を呼ぶ。

「楽しみね、楽しみだわ!」
「そうですか。ならさっさと攻略してきてください。いってらっしゃいませ」
「リャンも行くのよ!」

 顔をしかめるリャンの腕を掴みジュダルが入っていった建物に足を踏み込む。もしかしたら命を落とすかもしれないという不安すらも私を興奮させ、胸を弾ませながらジュダルの後をついていく。
 建物の中を我が物顔で歩いていたジュダルが足を止め、十メートル近い扉をノックするように叩いた。

「ここが、ダンジョンの入口だ。ここから俺は後ろを歩くぜ」
「そうね、あなたの手を借りたくないもの。リャン、行くわよ」

 脇に避けたジュダルの横を通り扉に手を乗せる。二、三度押して扉の重さを確かめてから視線を持ち上げてリャンを促す。ガ、ゴゴゴゴ……重々しい音を立ててリャンが開いた扉の隙間を覗き込もうとすると、背中を強く押された。吸い込まれるように扉の中に倒れ込みながら首だけで振り返るとリャンが手を振っている。「背中押したのお前かー!」という叫びがこだまし、私の体は不思議な光に包まれた。

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