ごお

 ファミレス。
 三十人近く居るというのに纏まった席が取れたのは跡部くんという人のおかげらしい、いったい何者なんだ。
 二度も助けて貰ったからか、新マネージャーさんに対して一方的に友情が芽生えたので隣に座らせて貰った。メニューを手にして何を頼もうか悩んでいるとみんなが信じられない量の料理を頼み始めたので唖然とする。パフェやケーキ等のデザート系、もしくは食事を一品頼むのかと思いきや、いくつもの料理を頼む彼らは女子とは体の構造が違うのかもしれない、と思ったのだがマネージャーさんもガッツリと頼むので運動部ではこれが当たり前なのかもしれない。ただ一人、新マネージャーさんだけは控えめにケーキだけを頼んでいた。ますます親近感が湧く。因みに私はミートスパゲッティを注文した。

「ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 席を立ち上がった瞬間マネージャーさん以外の視線が一気にこちらを向いたので一言断りを入れると、新マネージャーさん――姫乃ちゃんという名前だそうだ――も一緒に行くと言うので二人でトイレに向かった。トイレの個室に入ろうとすると姫乃ちゃんに腕を捕まれたので振り返ると、まるで便秘一週間目のような歪んだ顔をした姫乃ちゃんに肩を押される。

「貴女、逆ハー補正をかけてもらったんでしょ? 卑怯ね、そんなことをしても彼らの本当の心は貴女のものにはならないのよ。今からでも遅くないわ、止めなさい」

 ぎゃくはーほせい? 補整下着の一種だろうか。逆三角形の体型になれるとかそんな感じかな、などと考えていると「何か言ったらどうなの!」と叫ばれ強く肩を押された。壁に打ち付けジンジンと痛む背中を気にしつつ姫乃ちゃんを見上げると殴りかかるかのように手を振りかぶっている。

「ちょっと、何をやってるの!」

 偶々やって来たらしいマネージャーさんの一人が姫乃ちゃんの腕を掴む。我に返ったらしい姫乃ちゃんはハッとしたような顔で腕を下ろすも相変わらず鋭い目付きで睨んでくる。

「貴女もおかしいと思うでしょ? みんながみんな工藤さん工藤さんって」
「え?」
「信じがたいことかもしれないけど、この子はみんなの心を操っているのよ」
「何を言っているの? そんなこと出来るはずないじゃない」

 暫く姫乃ちゃんとマネージャーさんの言い合いが続き、私一人置いていかれる。

「逆ハー補正? ってやつがあったとしても、工藤さんがそんなものを使うとは思えないわ」

 今日初めて顔を合わせた私をそこまで援護してくれるマネージャーさんに驚いて目を見開くと、こちらを振り返ったマネージャーさんと目が合った。切なそうに目を細め、それでも笑みを見せる彼女は女の顔をしている。
 ポツリポツリと話し始めた彼女の言葉を頭の中で繰り返す。マネージャーさんは幸村くんのことが好きで、ずっと彼を見てきたこと。幸村くんが別の人を見ていることに気付き、思い切って本人に真偽を確かめたこと。……幸村くんの想い人を憎んだこと。

「でもね、幸村くんがその人を見るときの目付きや話し方がとっても素敵なの。いくら心を操れたとしても、あんな表情をさせることはできないわ。それに、その人を見ていてわかったの、幸村くんが想いを寄せる理由。その人もとっても素敵な人なのよ。幸村くんが好きになっても頷けるくらい」

 目尻に涙を浮かべるマネージャーさんを見て、息を呑む。

「そんな素敵な人が人の心を弄ぶはずがないわ!」

 真っ直ぐに前を向くマネージャーの頬を姫乃ちゃんが叩いた。「私が醜いというの?!」「可愛い顔にしてもらっても……!」「私だけを見てよ!」ヒステリックに繋がりのない言葉を吐き出す姫乃ちゃんはとても苦しそうに喉を引っ掻いている。思わず手を伸ばそうとするとその腕をマネージャーに掴まれた。私が声を掛けても火に油であることを理解し、おとなしく身を退いた。

120818
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