にい

 次の日。
 昨日家に帰ってから考えたのは幸村くんのことだった。私のどこが好きなのか、いつから好きだったのか、まさか私なんかを思っていてくれたなんて。いやでも、まさかそんなことありえない。

「ねえ、どうしたの?」

 私を現実へと引き戻す声。
 慌てて顔を上げるとゆんちゃんが心配そうに顔を覗き込んでいた。ぶんぶんと首を振って平気だということをアピールしてみせると今度は怪しむような表情をする。

「朝からボーッとしてばかりじゃない」
「そうかな?」

「――工藤さん」

 ポンッと肩に乗せられた手に驚きビクリと体を跳ねさせる。過剰に反応してしまったことが恥ずかしくて縮こまるも、いつまでもそうしてるわけにはいかず恐る恐る振り返ると柔らかい笑みを浮かべる幸村くんが立っていた。彼が視界に入った途端カアッと顔が熱くなったのは昨日の一件があったせいだろう。

「えっと、その、あの……ええっと……」
「フフッ、そんな挙動不審にならないで。今日はマネージャーの勧誘に来ただけだから」

 マネージャー、と頭の中で反復して首を傾げる。テニス部マネージャーの勧誘? でも、昨日の女の子がマネージャーとして入っただろうし、元々マネージャーは何人かいるのだからこれ以上は必要ない気がするのだけれど。
 マネージャーについて詳しいわけではないので何か事情があるのかもしれないが、一年のときならまだしも二年も半ばに差し掛かった今、新たな部活に入部する人も勧誘する人も滅多に居ない。

「マネージャー、足りてないの?」
「いや、昨日の子も入ってくれたし、むしろ多過ぎるくらいかな」

「なら、どうして?」

 私にとっては何気ない質問だったのだが、幸村くんは酷く驚いた顔をする。自分でも何故誘ったのかわからない、というように答えを探す幸村くん。
 私との時間が増えるから誘ってきたのでは、なんて自意識過剰なことを少し考えたのだが違うらしい。

「あの、何か理由があるのだとしても私はマネージャーをやりたくない。今から入っても、とても役に立てる気がしないから」

 悩み続ける幸村くんにそう声を掛けると、腑に落ちない点はあるみたいだが幸村くんは納得してくれたみたいだ。

120629
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