一次試験

 一次試験の会場に入るともうゴンたちは到着していた。「ヘンリーも来れたんだね!」と笑顔で言うゴンに頷き、無事で良かった、と言うとそれはこっちの台詞だとレオリオが突っ込む。

「よくここまで来れたな」
「うん、あのバスはやっぱりフェイクだったみたい」
「だからあのとき俺と来れば良かったんだよ。……どうしたんだ、クラピカ?」
「いや、ヘンリーはどうやってこの場所まで来たのかを考えていてな。一度ルートを間違えたら、そう簡単には戻れないだろう?」

 不思議そうに首を傾げるクラピカに、確かにあのままだったら試験を受けることができなかったかもしれないと頷く。

「先生が教えてくれたの」
「先生?」
「うん、先生。名前はえーと……なんだっけ?」
「……私に聞かれても」
「名前くらい覚えておけよ」

 呆れたように言うレオリオの言葉はもっともで、次会ったときにきちんと名前を聞いて覚えようと思う。

 それからも他愛ない談笑を楽しんでいたのだが、突然鳴り響いたけたたましい音に顔を上げる。――ようやく、試験が始まるようだ。
 気を引き締めながら走り出そうと足に力を入れるも、人の波に飲み込まれもみくちゃにされる。ゴンたちとははぐれてしまい、余分な体力までも奪われてしまった私は、始めからこんな調子で本当にハンター試験に受かるのだろうかと、ここにきて初めて合否の心配をした。

「先生は大丈夫だって言ってたけど……もし受からなかったらどうしよう」

 便利だからとってくれば? と夕飯のおかずを買って来いとでも言うように簡単に言うものだからハンター試験を甘くみていたが、少し気持ちを入れ直さなければならない。
 何時間も走りようやく建物の中から脱出することができたが、おかしな状態になっていた。自分が本物の試験官だと言う傷だらけの男が、今まで試験官だと思っていたサトツさんに怒声を上げる。確かにサトツさんって普通の人に比べたら見た目も変だし……と疑心暗鬼になっていると、二枚のトランプが飛んでいく。どうやらサトツさんこそが本物の試験官らしい。……し、失礼なこと考えてごめんなさいサトツさん。

「カタカタカタ」
「? ……! ……な、なに?」

 どこから聞こえてきた鳴り止まない音に不思議に思って音源を探ってみると、とても怪しい風貌の男の人が立っている。私から目を逸らそうとしない人物に警戒をすると、男は一本の指を立てた。ハッとして凝をすると、男は満足げに頷いて去っていく。サトツさんが再び走り出していることに気づき慌てて追いかけるも、先ほどの男が気がかりだ。
 男は念で「君、能力者?」という文字を作っていた。歪みのないその書体は男の実力を示している。

「そんなに考え込んでどうしたの、お姉さん」
「? あ、……えっと……少し考えごとをしていたの」
「試験中だってのに余裕だね。……俺はキルア、お姉さんは?」
「ヘンリーよ」
「へえ、よろしく。俺もハンター試験に退屈しててさ、ちょっと暇つぶしに話さない?」

 私は余裕があるわけではないのだが、同じことも考えているのも飽きたのでキルアの提案に頷く。簡単な自己紹介をし合って、試験に関係のない話をしているとあっという間に二次試験場まで着いた。木陰に入りそのままキルアと話を続けていたのだが、見覚えのある姿に顔を上げる。「レオリオ」と呟いたキルアに彼もレオリオの知り合いなのだろうかと首を傾げるもレオリオの腫れた顔の方が気にかかり駆け寄った。

「痛そう……早く治って」
「ヘンリーってレオリオの知り合いなのか?」
「うん。キルアも?」
「まあね」

 ポケットに両手を突っ込んだままのキルアはレオリオを手当しようという気持ちはないようだ。私も怪我をするとは思っておらず治療する道具といったら絆創膏くらいしかなくどうしたものかと首を傾げる。せめて水で冷やしてあげようとバッグに入っている水でハンカチを湿らせて顔にくっきりと浮かんでいる青あざに乗せた。隣にしゃがむキルアが水ちょうだいと言うのでわけてあげるとペットボトルの中にある水は半分に減ってしまう。後で水をくもうと水筒代わりのペットボトルを肩掛けバッグにしまっているとレオリオは目が覚めたようで「いてて」と顔を押さえてる。ずれたハンカチを当て直しながら大丈夫かと声をかけると、レオリオは少し驚いたような顔をして首を縦に振った。

「ヘンリー、無事だったんだな」
「レオリオはどうしたの、その顔」
「……ちょっとな。それよりゴンとクラピカ知らねえか?」
「あそこにいるのそうじゃない?」
「おお、キルアじゃねえか。お前も無事だったんだな。……おーい! ゴン、クラピカ!」

 大きな声を出したレオリオの声に反応したゴンとクラピカが合流し、無事を確認し合い笑みを浮かべた。

120820
次のページ#
目次/しおりを挟む
[top]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -