長い演説
カーチャルは悩みに悩んだ。女の勘で、ヤンとジェシカの間には入れないと察しているのだ。
二人は何やら会話をしていたがカーチャルは聞こえない位置にいて、二人を見ていた。
ヤンの方がかつてジェシカに気があったのだろうと張り巡らせる。
『女帝』と言われてはいるが、カーチャルは自分にとってしてはいけない領域を決めていた。今の光景に入らないのも領域にあったのだ。
ヤンとジェシカが話し終わったのか、離れてからカーチャルは帰ろうとした。
「カーチャル准将、帰るのかい?」
「他にどこいくんだ。あんたが飯を・・・」
年老いた女性の声がした。男の子をつれている。
女性が感激したといいながら何やら語っている。
カーチャルは今、相当自分は複雑な顔をしているのだろう。言われているヤンですらあんな顔をしているのだから。
ヤンが逃げの選択をとったのでカーチャルも追うようにその場を後にした。
シルバーブリッツ街二四番地。
カーチャルはつい、ヤンの官舎まで来てしまったようだ。ヤンは仕方ないので、夕食に誘うことにした。
「お帰りなさい、准将」
カーチャルは少年に目を向けた。優秀そうな子だ。
「もしかしたら帰っていらっしゃらないかと思っていたんです。・・・そちらの方は?」
「カーチャル准将。以後よろしく。まぁ生きていればだが。それよりなぜそう考えたのか、が知りたい。」
ユリアンは不審そうにカーチャルを見たあと説明をした。
ヤンとカーチャルは声をだぶらせてこう言った。
「あの野郎・・・・・・」
カーチャルがキャゼルヌからさらに金をせしめあげようと考えたのはいうまでもないが。
「カーチャル准将はシチューは食べても大丈夫ですか」
「あぁ悪いな、いきなり上がり込んで。」
「悪いのはヤン准将ですから」
よくいう子だ。カーチャルはユリアンが将来安泰であるような気がした。少なくともヤンよりは。
しばらく食事に付き合うと、ユリアンが今後の進路をヤンにふった。早く卒業させる制度があることをカーチャルは思い出した。
ヤンはユリアンにあっさり軍人嫌いの話をしてみせた。
ユリアンはカーチャルに助け船を出してほしいと密かに思っていた。カーチャルは見事に裏切ってみせる。
「俺が軍人になったのは金欲しさだ。今では後悔をしてなくもないさ。」
ユリアンは期待外れの助け船にガッカリはしたが表には出さなかった。