床の上のお姫様
世にいう“リップシュタット戦役”がはじまり、彼女は暇人となっていた。
上司のため、仕事をしようと考えないのがなんとも彼女らしい。
オーベルシュタインはマーティルダが仕事をすると期待はしていなかった。
マーティルダはオーベルシュタインに言われたことを思い出した。
「やることがなければ、かつての記録を見ておくように。」と。
かつての記録と曖昧にしたのは、マーティルダになんでもいいから読ませるためであった。
マーティルダは気合いを込めて、書類とにらめっこを始めた。しかも、床の上で。
これを見た他の兵からは、オーベルシュタインに喧嘩を売るような部屋の汚し方と称した。
その通りに彼女は見た書類、資料を床の上に放置していた。本人に悪気はない。
オーベルシュタインが何も言わなかったため、彼女は気にしなかったのである。
三日して、さすがに部屋の有り様に気づいて整理を始めた。
どのような順番で置かれていたか忘れたマーティルダは、再度中を読み直し、自ら思う順番で片付けた。
それを部屋の主がいようと繰り返し続けた。
戦闘が開始されても、彼女はあまり気にせず読みふけていた。
オーベルシュタインが戻る頃には床で伏せて寝ていることはよくあった。
ちなみに彼女が資料を全て暗記というより感覚的把握をすることになるが、それはラインハルトが皇帝になってすぐである。

「何をするにも忠実なのはいいが、体を壊しかねない。」

ミッターマイヤーは心配そうに友人によく言っていた。
その友人のロイエンタールはオーベルシュタインが止めないことの方を指摘した。
せめて床の資料ぐらい片付けを徹底させるべきだと。
オーベルシュタイン自身は床の踏み場なかろうと、彼女の気分を阻害することは極力さけていた。
気分屋の傾向がある彼女は、気分が乗らなければ何もしなくなってしまう。
それより、資料を暗記していたほうが幾らか役に立つという判断だった。

そんな彼女の気分が乗らなくなったのは五月ごろのことだった。
簡単に計算すると一ヶ月間、資料とにらめっこしていたことになる。
オーベルシュタインはとりあえず放置しておこうと決めたが、それが問題となった。
意外にもロイエンタールと揉め事を起こしたのだ。しかも、理由があまりにも幼稚だった。
マーティルダは元々人付き合いがうまい方ではない。後先を考えず発言をすることが多く、ちょっとしたことで怒り、問題児とされていた。
ミッターマイヤーが中立な立場として止めに入るが、互いに軽傷を負った。

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