6.他者と自分 大事なのは? 2/3

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白兵戦の訓練は、武器を持ったまま六キロメートル歩くことから始まり、水中訓練に移る。最後には立っていられなくなるが、これを楽にこなせる日が来るのだろうか。ユリアン・ミンツのイゼルローン日記を思い出した。同盟では五キロメートルだったか。
一通りの訓練を終えて、立てなくなったカサンドラは、重装備を脱ぎ捨てて座り込んだ。今日はこのまま食堂に寄って帰ろう。ビッテンフェルトにアルテマの餌を買わせよう。上司兼恩師に対して不遜なことを思う部下は、ゆっくり立ち上がった。

「カサンドラ」

呼ばれたので顔をあげるとオイゲンがいた。面倒だ。顔を逸らしてしまおうか。いや、立場が上である相手にそんな態度は良くない。
カサンドラは腹をたてながら、仕方がなくオイゲンの顔を見た。

「なんですか」
「……もしかして、話しかけられるの、嫌?」

なぜそう言われたのか。カサンドラは思い返す。今まで笑って返事をした覚えがなかった。ビッテンフェルトに対してもだが、女の子らしい愛想など出していない。むしろ睨み付けていたような気がする。ならば言われてしまうことも仕方がないか。これが面倒な上司なら、即座に嫌われて危険地に送られていたに違いない。
首を横に振り、そうではない意思を伝えてから、本題を尋ねた。

「君がこれからどうしたいのか、訊いていなかったと思って」
「は?」

カサンドラには妙な質問に思えた。
得たいのしれない娘に自由意思による選択など与えられるはずがない。理由はどうであれ、軍人になってしまった以上はその道の中で自由を得るしかない。彼女にはオイゲンの尋ねる意味がわからなかった。どうしたいのか、とは希望する配属先のことだろうか。それはビッテンフェルトが決めることで自分の意思ではない。
そのむねを彼女は隠さずに言う。

「私が自分で決められないことをなぜ訪ねるんですか。
軍属ですから、ビッテンフェルト大佐が決めたことに従うまでです。
それにある程度恩を返してからでないと、私のプライドが許さない」
「そういうことではなくて、ビッテンフェルト大佐が君を将来副官にしたいらしいんだ。」
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