出会った日
まったく理解してくれない。
理解しようともしてくれない。
そんな大人が私は大嫌いだ。
「何度言ったらわかるの。あなたにそんな才能なんてあるわけないでしょう」
「練習してみないとわからないじゃない!」
「練習や努力をしたってできない事だってあるの」
何をどうすがってもわかってくれない親にはもう嫌気がさす。
悔しくて悔しくて吹奏楽の先生に頼み込んでは部活後もフルートの練習をさせてもらっていた。
音楽の世界に進みたい。
何度無駄な事だって言われても。
「#name2#」
聞こえてきた声に指を止める。
声のした方を見れば土浦梁太郎の姿があった。
「土浦くん。どうしたの?」
「いや…部活終わって帰ろうとしたらフルートの音が聞こえてきたから」
「音楽好きなの!?」
土浦くんの言葉に思わず飛びつくように近づいた。
それに相手は驚いたように少し引いている。
「っと、ごめん」
音楽好きがいると思うとどうも自分の体が勝手に動くようだ。
「いや、別にいいけどよ…お前音楽が好きなのか?」
「大好き!」
満面の笑みを向けると相手は驚いたように目を見開いていた。
「土浦くん?」
「いや…聞いてもいいか?」
「もちろん!」
聞いてくれる人がいるともっと弾きたくなる。
わくわくする。
そんな想いを乗せて奏でる。
そうして時間は刻一刻と過ぎていった。
「…すごく楽しそうに弾くのなお前」
「そう?」
「ああ…将来はそっちの方にいくのか?」
「行きたいけど…お母さんが許してくれるかどうか」
「親が許してくれねえのか」
「うん、でも諦めない!」
時間が時間なだけに楽器をしまいながら話す。
こんな話をしたのは初めてだった。
「どれだけ努力しても天才にはかなわないってお母さんは言うけれどさ。その天才も何もしてないわけじゃないと思う」
「…」
「その天才以上の努力をしないとそりゃ、そこには行けないもん!」
だから諦めない。
私はきっと努力してない。
もっともっと、お母さんを唸らせるほど努力をしたら、その時きっと認めてもらえる。
「そう思ったらもっと弾きたくなるの」
そう言うとさっきしまったばかりの楽器を取り出そうと手が動く。
「おいおい、もう下校時間になるぞ」
そんな私の手を土浦くんは止めてため息を吐いた。
「俺の家、こいよ。そしたら思いっきり弾ける」
「え!?」
その後は興奮した私に土浦くんが軽く引きながらも彼の家に行った。
そして嬉しさのあまり夜遅くまでお邪魔してお母さんから心配の電話がかかってきたのは言うまでもなかった。
「すみません、お邪魔しました」
「いいのよ、これからも梁太郎と仲良くしてちょうだい」
「あ、じゃあこれからは二人の時梁太郎って呼びます」
「は!?」
「クラスで呼ぶとからかわれそうだしね」
「いやそう言う問題じゃなくて」
「梁太郎ったら何照れてるの?」
「母さん!」
「ぷっ」
その光景に思わず笑ってしまった。
「ご、ごめんつち…と、梁太郎。そんなに照れなくてもいいからさ!」
「お前もわざわざ言い直すなよ…」
「別にいいじゃない?私これからここにお邪魔する気満々だし、おばさんも土浦だし」
「は?」
「学校で弾けないぶん、ここで弾かせてもらう約束したの」
「ねー」
おばさんと二人で笑っていると梁太郎はもう諦めたような呆れたような顔をした。
「好きにしろ…」
「梁太郎も気兼ねなく皐月って呼んでね」
へらりと笑えば梁太郎の顔が赤くなる。
それがなんだか面白い。
「そんな女になれてません。な反応しなくても」
「慣れてねえって」
「あははは!」
これが私と梁太郎の出会いだった。
のちに私たち二人が組んでとある学園で名を轟かせた話はまた後日。
2018.01.04.
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