序章
「そんな顔しないで、また逢えるよ」
「カヲル君!」
フォースインパクト。
その兆し。
シンジはただ涙を流し、カヲルはそんなシンジを見ながらも穏やかに微笑う。
その刹那
『外せるんなら外してシンジに精神的ダメージを与えるなバカヤロー!』
「!?」
聞こえてきた声にカヲルの身体が反射的に首に付いていた枷を外す。
「…え」
「カヲル…くん…よか…っ」
どうやらシンジには先程の声は聞こえていなかったらしい。
カヲルが外したその枷を見て、カヲルがここにいる事に安心している様子だった。
カヲルは何故自分がこの枷を外してしまったのかただただ不思議でしかたなかった。
だが、そう考えるのも束の間。
「しまった、扉が閉まらない!」
己が自爆する事によって閉めるはずだった扉。それが遂行されなくなった。
このままではと思いながら、考えている暇なんて。けれどカヲルはそれでも口元に手を持って行き、限界まで頭を働かせた。
「くそ、ごめんねシンジくん。また君を幸せにできなかった」
「僕の方こそ、ごめん、ごめんっカヲル君…!」
「謝らないでシンジくん。君は何も悪くない」
壁があるにも関わらずそっと手を重ねる2人。
「また逢えるよ、きっと」
「外せるんなら外してシンジに精神的ダメージを与えるなバカヤロー!」
「ちょ、音羽!落ち着いて!」
大声を上げながら終いには枕をボフッとテレビへと投げつける女の子。
名前は音羽。
「だってだって!エヴァ乗る前はアッサリ取ってたじゃない!なら取れるでしょ!?しかもシンジに目の前で更に精神的ダメージ負わせて!」
「だから落ち着きなって〜」
音羽を取り押える友人の希美。
「…っ、なんで、自分をそんな犠牲にしてまで…っ」
ボロっと音羽の目から涙が溢れる。
人間じゃない。だからこそ、碇シンジという人間に対し、そこまでの執着を見せる彼がただ素直に凄いと思えた。
けれど、もどかしい。
「………あれ?」
ふとテレビを見ると、流れるはずのエンドロールが流れない。ただ無機質に"ザーッ"という音が聞こえる。
「えっ!?嘘、壊れた!?」
チャンネルを変えてみるが、他のテレビはなんの違和感もなく映っていた。
「あ、れ?」
エヴァの映画だけが見れなくなっている。
ブルーレイが壊れたのかと思えばそうでもない。
ただ、Qだけが、流れない。
「見すぎたのかな……?」
「音羽エヴァにいきなりハマったもんねえ。そこからこれ見たの何回目よ」
「でも、10回も見てないよ?」
「逆によく飽きないわね…」
結局原因が判明しないまま。
無機質な音だけが響いた。
さあ、始まるよ
僕らの軌跡。
to be continue.
2016.08.18.
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