11th:私の居場所ー前編ー

カヲルが何を言っているのか。
私は最初訳も分からず。
ただ呆然とカヲルを眺めていた。

「……」

カヲルは音羽の頬に手を添えてゆっくりと顔を近付ける。

「ねえ、答えて音羽」
「こ、たえるって…」
「僕らをここに居させてくれる理由は、なんだい?」
「そ、れは…」

なんで。

「……」

音羽は何も言えずにただカヲルの顔を見る事しかできなかった。
カヲルは音羽のその反応に何を思ったのか額にそっと口付ける。
カヲルのその行動に音羽の指はピクリと動いた。

「ちょちょちょ、ちょっとカヲル!さっきから何をしてくれてっ」
「二人はちょっと席を外してくれないかな」
「なん!」
「の、希美っとりあえずカヲルくんの言う通りにしてみようよ、ね」

カヲルに食らいつこうとしている希美をシンジは後ろから両脇に腕を通し固め、少し苦労しながらも部屋から出ていく。

「カヲルくん、音羽よろしくね」

カヲルの事を信じているのか、シンジは笑顔を浮かべて扉を閉めた。
カヲルはその言葉にきょとんとしながらもシンジらしいなと笑みを浮かべる。
そして音羽へと向き直った。

「音羽」
「…」

反応のない音羽にカヲルは少しむっとした。
今度は頬へと口付ける。

「…っ」

びくっと動く肩。
カヲルはそれに気を良くしたのか顔じゅうに口付けを落とす。

「カヲ、ル」

止めて。と音羽が制止しようと手を伸ばす。
だがその手は当たり前の如く取られてそのままベッドに押し付けられる。

「彼女は音羽が落ち着いたらと言ったけれど。僕は君から直接聞きたい」

穏やかに笑って。
けれどどこか獲物を捕らえたような
そんな顔。

「何、を」
「君の過去。今そうなっている状況」

ドクリと心臓の跳ね上がる音がする。
ピクリと動く指先。
動揺からなのか目を見開く様。
ほんのり浮かぶ冷や汗。
どれ一つカヲルは見逃さなかった。

「彼女は音羽が自分を見失うと言っていた。どういう事だい?」
「…っ」

音羽は口を開くが声が出ない。
理由を話そうとしているわけでもない。
ただ言いたくないと、どいて欲しいと。そう懇願の眼差しでカヲルを見るが

「音羽」

顎に指を掛けられカヲルの顔がゆっくりと近付いてくる。

「っいや!」

バシっ。とカヲルの頬を思い切り叩く。
ドクドクと激しい音が鳴り止まない心臓の音。
荒くなる息。

『ほら、音羽様』
『や、いや!知らなくていいそんな事!』
『何をおっしゃいます。あなたの母君は簡単に私に身体を許しましたよ』
『私はお母様じゃないわ!』
『何を仰います。父君には言うわけじゃありません、気持ちい事をするだけです』
『いやあ!誰か、誰か!』

叫んでも誰も入ってこない。
誰もいない時を狙った犯行。
それが、当たり前かのように。
男なんて

「…っカヲルも、私の意思なんて聞いてくれないのね」

ガクガクと震える身体。
ボタボタと溢れ出る涙。
眉根を寄せ
歯を食いしばり
最後の抵抗とでも言うようにカヲルを睨みつける。

「音羽…」

その姿を見てカヲルは目を見開いた。
恐怖、絶望。
この2日程行動を共にした彼女とはとても思えない。
その姿にどうしようもない何かが込み上げ、手を伸ばし音羽を抱き寄せた。

「っ!やだ!嫌だ!」

精一杯の力を振り絞ってカヲルを引き剥がそうとする音羽。
音羽のその行動にカヲルはどうしようもなく何かが締め付けられるような感覚を覚えた。

「音羽」
「嫌よ!触らないで、私、私はっ」
「音羽」
「私はお母様じゃない!!」

音羽の叫び声に、でてきた単語一つに
カヲルは再び目を見開く。

「離して!私は私よ!操り人形じゃない!」
「……」
「機械でも、性玩具でもないわ!」
「!」

音羽の言葉にカヲルは抱き締める力を強くした。
音羽が出す言葉一つ一つから音羽の過去を想定し、その中での性という言葉に

襲ったであろう相手に殺意が湧いた。

「っ、やっと、離れたのに…!」
「…?」

離れた。とは…そう思案してると音羽が次の言葉を紡ぎ出す。

「あの親たちから解放されて、やっと平和になったと思ったのにっ」

音羽の言葉にカヲルは一瞬思考を停止した。








「……え」
「そう…音羽は養子としてこの家に引き取られたの」

希美とシンジは客間にてメイドの入れた紅茶を飲んでいる。
音羽の義父と一緒に。

「…まだ音羽と私の親子としての関係は2年程だよ…」
「そん、な…全然そんな風には…」
「うん、彼女は強いだろう?」

父親の穏やかな笑みに、シンジは一瞬目を見開き、そしてすぐに

「…はい」

同じように穏やかな笑みを浮かべた。




カヲルを信じてここで一緒に待ってくれているこの父親も

また強いと感じながら。






to be continue.
2016.09.04.

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