ずっとあたしの側にいて。


「…幾年も、お前を愛し続ける。ずっと、いつまでも。だから、ずっと待ってる」

そう言って、彼はあたしの手を取り優しい口づけをしてくれた。
温かくて、優しくて、綺麗な手。
綺麗な漆黒の長髪。
あたしは彼の全てを愛し続けて─────




ピピピッと聴き慣れた目覚ましのアラーム音。
広がるのは自分の部屋の天井。

「まただ」

また、あの夢。
小さい頃から見る夢。
あたしと、知らない誰かが寄り添う幸せな夢。

「…ホント、どこの誰なんだろ」

少なくとも、あたしは夢の中でしか会ったことがないからどんな名前でどんな声なのかも知らない。
知ることができない。
時代背景は多分江戸時代くらい。
浅葱色の羽織が特徴的な人だった。

「あ、やばい。時間だ」

目覚まし時計の長い針は既に30分を指している。
やばい、そろそろ起きないと遅刻する。
ベッドから飛び起きて、ハンガーに掛けられている制服を徐に掴んだ。



*****


「千鶴、おはよう」
「もー遅いよしおりちゃん」

玄関の前で、ぷりぷりと頬を膨らましながら待っている千鶴に思わず笑みがこぼれる。
千鶴はあたしの幼馴染で、家は隣同士。
ちなみに、その隣はまた平助という同い年の男の子もいる。

「ごめんごめん、ちょっとね」
「…またあの夢?」
「まあね」

前に千鶴に、夢の話をしたらこの子はすごい親身になって相談を聞いてくれた。
それから、何かしらと心配してはくれるのだけれど…。

「気にしないで千鶴、もう慣れたし」
「…そっか」

なんでこの子は、とても悲しそうに笑うのだろうか。







学校につけば、いつも通り昇降口で上履きに履き替える。
いつも通りの、風景。

「…じゃあね千鶴、また放課後」
「うん、またね。」

あたしの教室は3階の西側、千鶴は東側。
必然的に登る階段も変わってくるので、その場でばいばい。
いつも通りに、西階段を登る。

「…そういえば今日日直じゃん!」

すっかり忘れてた。
職員室は1階。
…もう一度戻らなきゃ。



あたしの担任は原田先生。
永倉先生と仲がいい。そしてモテる。
永倉先生はモテないけど。

「失礼します」

スクバを置いて、職員室のドアをガラリと開ける。

「2年の高梨です。日直で来たんですけど原田先生はいますか」

ちなみに日直は2ヶ月ぶり。
キョロキョロと職員室内を見回すが原田先生の姿はなし。
あれ、おかしいな。

「───原田のクラスの日直か?」
「え、あ、はい。そうです、原田先生は───」

後ろから声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは────

「─────あ、」

知らない先生のはずなのに、知ってる人。

「…しおり、?」
「え…あ、そうですけどっ」

確か、古典の土方先生だっけ。
あたしのクラスは受け持ってないから、名前しかしらないけど。
でも、なんでこんなに懐かしい気がするんだろう。

「、あ…原田に用事だったな。悪いな、あいつは今職員会議中だ」
「そう、ですか」
「取り敢えず、戻ってきたら言っておくからお前は教室戻っていいぞ」

ポン、頭に手を置かれてドクンと鼓動が一つ、跳ねた。
なんでだろう、こんなに悲しい気持ちになるのは。
どうしてだろう、とても懐かしいのは。

「、ぁっ…」

────あぁそうだ。
この人は、夢に出てくる彼に似てるんだ。

「…おい、どうした?」
「っ夢、浅葱色の羽織…長髪」

この人は、あたしが一番愛していた────。

「、ひじ…っかた、さん?」
「っ、」

彼が、酷く動揺した。

「おま、え…覚えて、るのかっ?」
「、わかんな、ッ頭がぐちゃぐちゃで…っ、土方先生とは初めて話すのにッ知らないはずなのに、!」
「、取り敢えず落ち着けッ!」

頭の中はぐちゃぐちゃ。
あたしはただの女子高生じゃないの?
わかんない、わかんないよ。

「土方さん?どうした…って高梨!?」
「は、原田っ」
「高梨っ?おい、どうしたんだよ!」

怖い、あれ?あたしってなんだっけ?
何もわからなくなってきた。
彼は、この先生はあたしの何だっけ。
溢れる涙が止まらなかった。
思い出すのは、夢の中のあの人。
フラッシュバックするのは、新選組の屯所の様子。
原田さんと永倉さんが平助をからかう姿。
沖田さんが斎藤さんと稽古する姿。
近藤さんの優しい笑い顔。
そして、土方さんの…愛する人の漆黒の綺麗な髪。

「あっ…」

思い出した、あたしは。
あたしは、土方さんの。

「土方さんっ、土方さん…!」

夢の中の彼は、あたしの隣で寄り添ってくれた土方さんだ。





「思い出したのか、?」
「ごめんなさいっあたし、あたしは、」

場所を進路室に移した。
優しく抱きしめてくれるのは、一生愛し続けると言ってくれたあたしの愛する人。

「…、土方さんはずっと待っててくれたんですか?」

あたしの事を。

「、当たり前だろッ待たせやがって」
「うぅっ、ごめんなさい…ッ」
「でも、ありがとな」

そう言って土方さんは、あたしの唇に口づけを落とした。
あぁ、変わらない。
昔からこの人は。

「…愛してる、しおり。これからも、ずっと一緒にいてくれるか?」
「っ勿論、土方さん。大好きです」

これからも、ずっと一緒にいれることを信じて。
もう一度深い口づけをした。







「そういえば、新選組の人たちは全員いるんですね」
「ホント、腐れ縁だな」
「ですね、ふふ」
「それより、ずっと待たされたんだから今夜覚悟しとけよ」
「…」

土方さん、一応生徒と教師の関係なんですからね。
自重してくださいよ。



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