台風は嫌いです。


「――――日本に上陸した台風10号は、まもなく東日本を通過し、今日の夜から明日朝にかけてここ東京に上陸するでしょう。台風10号は大雨と雷を伴い、やがて――――」

というニュースがテレビから流れてきたのはお昼頃。
そのニュースを聞いていた奴良組全員は、屋敷が吹っ飛ばされないように補強工事を行っていた。
そして、とうとう本格的に雨が降ってきたのは夜の8時を過ぎた頃。
障子や襖がまるで悲鳴を上げているかのごとくガタガタと揺れる音に、しおりはビクッと肩を揺らした。

「――――なんだしおり怖いのか?」

クツクツと喉を鳴らして笑ったのは父である鯉伴。
その後ろでは、ぬらりひょんが口を押さえて笑っていた。
―――うっぜー。

「別に怖くないもん!!」
「ホントかい?実は案外ビビってたりしてー・・・」

と、ゲラゲラと鯉伴が笑い始める。
それにつられてぬらりひょんも笑い始めた。
クソ・・・馬鹿にしやがって!!
別に怖くなんかないし!!
と、ジト目で睨んでいたその時

「―――親父もじじいもしおりのこといじめてんじゃねぇよ。かわいそうだろ?」

と言ってくれた救世主さまは我が恋人であるリクオ。
この人だけはどんな時も優しくしてくれる。
しおりは、リクオの後ろにチョコンと座った。

「父さんもぬらも嫌いだもんね!!馬鹿!!あっちいけ!!」

舌を出してあっかんべーとするしおりに、鯉伴はじーっと見つめるなり再び笑い始める。
一体何なんだ。

「やっぱオメェはガキだな!!はっはっは!!」
「―――なっ!!何なの!?父さんのバカ!!もうあたし寝る!!父さん何か知らない!!」

悔しい悔しい!!
ガキだなんてバカにされるなんて―――。
しおりはバッと立ち上がると、鯉伴にギロッと睨みつけそのまま走って部屋へと戻っていった。
そしてそんな様子を見てリクオはハァっと溜息。

「だから言ってんだろ・・・たく、親父のアホ。」
「・・・からかいすぎたな」
「当たり前だクソ親父。しおり泣かせんな」

あはは・・・と苦笑いをする鯉伴に、リクオは再び溜息を漏らす。
そして、盃に残っていたお酒を飲み干すとバッと立ち上がった。

「あいつの部屋行ってくるわ」
「あぁ、いってらっしゃい」

再び強くなってきた風邪と雨の音を聞きながら鯉伴はリクオに手を振ったその時だった。

雷鳴とともに、しおりの悲鳴が聞こえたのは。
そして、雷の影響でフッと暗くなった本家。
しおりの叫び声に、リクオはサァッと血の気が引き、バッと走り出した。



******




父さんのバカバカバカバカバカ!!!
何がまだガキだー、よ!!
あたしはガキじゃないのに!!
しおりは布団の準備をしながら先ほど言われた鯉伴からのからかいにむしゃくしゃしていた。
そりゃ、父さんから見たらまだガキかもしんないけどさ。
あたしだってもう大人だもん!!!!!
と、心の中で唱えていたその時

「―――――え?」

爆音に似たような音と共に、電気がフッと消えた。
真っ暗になり、目の前には闇が現れる。
聞こえて来るのは、遠くから聞こえる雷の音と勢いよく降ってくる雨の音。
そして、突然外が稲妻によって光った。
――――怖い。
嫌だ。誰か―――。
と、再びピシャーン!!という雷の音が響き渡った。

「やだ・・・っ怖、・・・どう、しよ・・・っ」

恐怖に、思わずその場にうずくまり耳を抑える。
稲妻の不吉な光も、音も全て怖い。
やだやだやだやだやだやだ―――っ!!
そして、まるでしおりに嫌がらせをするかのように再び雷が近くに落ち、しおりの精神が限界を迎えた。

「─────や・・・っりくお、やだやだ!!怖・・・っふッ・・・りく、ぇぐ・・・っ!!」

恐怖のあまり、涙さえも出てくる。
怖い怖い怖い怖い怖い。
お願い誰か来てよ――――!!
と、ぎゅうっと耳を握るかのように塞いだその時

「しおり!!おい!!大丈夫か!?」
「ふ・・・っ、ぇぐぅ・・・!!リ、ク・・・オ―――?」

安心出来る、大好きな声が聞こえた。
と、その声と共に再び近くに雷が落ちる。
ドーンと、響き渡る音に、しおりは恐怖で埋め尽くされた。

「い・・・やぁ!!怖、ぃ・・・やだやだやだぁ!!」
「しっかりしろ!!大丈夫だ!!オレがいるから!」

そんな声が聞こえるが、恐怖のあまり反応もできない。
怖い怖い怖い怖い。
心にあるのはそれだけ。
と、その時ふわっと体が何かに包まれた。

「ひっ・・・!」
「オレがここにいるから、安心しろ。離れねぇから・・・」

真っ暗闇の中、まるで脳に直接響くようなリクオの声に、心臓がトクンと高鳴る。
リクオは安心させるかのように、しおりの背中をポンポンとリズムよく叩いた。
――――心地いい。
安心感からか、しおりの瞳からはボロボロと大量の涙がこぼれてきていた。

「ふ、ぇ・・・っ!!りくお・・・、怖ッ・・・!!」
「大丈夫だ・・・オレはずっとここにいるよ」

リクオの声に混ざって聞こえる雷鳴の音に、カタカタと震えながらしおりはギュッとリクオの袖を握った。
そうしていれば、安心出来る気がする。
しおりはリクオに体を預けてパチっと目を閉じた。
トクン、トクンとリクオの鼓動の音が直接しおりの耳に届き、どこか安心ができる。
しおりは、そのまま目をつぶって、意識を闇に任せた。



******



「――――寝た、か」


スー、スーッと規則正しい寝息が聞こえるのを確認し、リクオはホッと安堵の息を吐いた。
――――随分派手に泣いたんだな。
赤くなっている目尻を見てフッと笑みを浮かべた。
それにしても、しおりがこんなに怖がるなんて。
やっぱり親父たちが言ってたように案外怖がりなのかもしれねぇな。

「オレが・・・守ってやっからな」

しおりは、絶対にオレが守ってやる。
しおりの頭をクシャっと撫でて、リクオはそのまま布団に寝転んだ。

―――いいや、今日はここで寝ちまおう。

明日、しおりの反応が楽しみだ。
リクオはクスッと笑い、そのまま目をゆっくりと閉じた。





「バカバカバカ!!父さんのアホマヌケ色男あっちいけ!!」
「だーかーらー悪かったっつってんだろ!?いい加減許せよ!!」

余談だが、鯉伴はあれから1ヶ月近く、しおりから許してもらえなかったらしい。



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