花火大会


私とリクオはめでたく中学二年生となり本当の意味で平和が訪れていた。
そんな日のお使いの帰り、ふと目に入ったショーウィンドウに貼られているチラシ。
私はそのチラシの内容に釘付けになった。そこには――――

「花火大会・・・?」

日本人であれば誰だって好む日本の夏の風物詩、『花火大会』
日にちは今日。
行きたい――――
私の心にはそれしかなかった。しかし――――

「最近リクオ忙しいからなぁ・・・」

そう。父である鯉伴から正式に奴良組の代紋を譲り受けてからというもの、リクオは前より一層忙しくなっていた。
勿論花火大会など行く暇もなく―――――

「・・・・・・諦めるか」

商店街の道の真ん中で私は深い溜息を吐いた。



******



そして屋敷に帰ってみれば突然私の目の前に飛んできた小妖怪たち。
その手には見覚えのあるチラシが握られていた。

「しおりー!!花火大会だとよ!!せっかくだからリクオ様と行ってきたら?」

無邪気に教えてくれる納豆小僧を筆頭とした小妖怪たち。
気遣いは嬉しいけど残念ながらそんな暇はない。

「うーん、最近リクオ忙しいから無理だなぁ」

一人では行きたくないしね、と答えると納豆小僧はそっかーと呟きながらその場から去っていってしまった。

「・・・私も行きたいけどね」

そんな少し寂しそうな呟きと溜息が小さく庭に響き渡った。



*****



「ねぇしおり、せっかくだから浴衣着てみない?」

笑いながらそう言ってきた母さんの手に持っているのは藍色の生地に山吹の花の模様が色飾ってある浴衣。
一体どこから出したのか。
それになぜわざわざ・・・と思っているうちに部屋に連れて行かれてしまった。



「・・・はい、これでよし!!」

キュッと後ろで帯を結んだ母さんが笑顔でそう言い放つ。
髪の毛も後ろでまとめられて、まるでどこかに出かけるかのような格好であった。
でも―――

「わぁ・・・すごい」

母さんのその手さばきに思わず感嘆の声を漏らした。

「うん!!すっごい綺麗になったわね!!母さん鼻が高いわ〜」

と、ニコニコしながら私をじっと見つめる母さん。
その時丁度障子がスっと開かれた。その先には

「若菜ーここにいたのか・・・しおり?こりゃまた随分と綺麗に飾られて・・・」

ポカーンとしている父さんの言葉に思わずムッとなったが、どうせ軽くはぐらかされるだけであろうから敢えてなにも言わずに私はそこに佇んでいた。
私がおしゃれをして何かおかしいの!?と。

「へぇ〜馬子にも衣装ってか?」

ブチッ
頭の中で何かが切れた音がした。

「うっさい!!私がおしゃれして何が悪いの父さんのバカ!!色男!!」
「悪かった悪かった・・・って最後のは褒め言葉だぜ・・・」
「鯉伴さん・・・女の子を泣かせた罪は重いわよ」

さりげなくとても怖いことを呟く母さんに父さんは思わず体を硬直させた。
振り返るとそこには黒い笑みを浮かべた母さんの姿。
父さんは顔を青くさせた。

(若菜こえぇぇっ)

父さんの心の声が聞こえた気がした。


「しおりー出かけ・・・あ?」

と、突然のリクオの声に私はビクッと体を震わす。
振り返るとそこにはやはりリクオの姿。
しかしその表情はどことなく固まっていた。

「・・・可愛い」
「へっ!?」

リクオの呟いた声に思わず頬を紅潮させた。
可愛いと言われたのは嬉しいけど少し恥ずかしいかも・・・っ。

「すげえ可愛いぜ」
「あ、ありがと・・・っ」

そう言って頬を撫でるリクオ。
私はそんなリクオにニコッと笑いかけた。
別に、花火なんか行かなくてもリクオと一緒にいれるならそれでいいや。
そう思ったのであった。



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