ミルクティが甘すぎて
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お気に入りの編み上げブーツを履いて、少しでも大人っぽく見せたくて髪をアップにしてお店の扉を開いた。
ドアベルがあたしの気持ちを現すように、高い音で忙しなくチリリリっと音を立てる。
適度に混んでいる店の中を入口からヒョッコリ顔を出して覗いたけれど、お目当ての人の姿はない。ガッカリ。
ため息を深くつくと、背後から肩をポンとたたかれた。

「悩み事?」

耳元で優しくささやかれて、あたしは慌てて振り返る。

「貴島さん!!」

飛び出した声は妙に高く聞こえた。変に思われなかったかな。大丈夫かな。そんな焦りが顔に出ていないといいんだけど。

「いらっしゃいませ、でいいのかな?」

私よりも高い背を少しだけ屈めて、貴島さんは小さく首を傾げた。手には紙袋を抱えていて、買い出しから戻ったばかりのようだ。
「はい」と言う前に、お店のなかから声がかかる。

「貴島ぁ、それの相手はいいから、カウンターのなか頼むわ」

呼んだのはこの店のオーナーであたしの兄でもある、前田大吾。似合わないあごひげなんか生やしちゃってさ。

「はい!あ、真希ちゃん好きなとこ座ってね」

あたしに頭を下げると、貴島さんは青いエプロンを翻してカウンターのなかに入って行った。
忙しくない時間を選んだつもりだったんだけど、邪魔になっちゃったかな。
反省しながら、あたしはカウンターの隅の席に腰かけた。
と、背後からトレイで頭を叩かれる。

「何しに来た」

おだんごがつぶれちゃうじゃないか!と振り返った先には大吾の姿。文句を言いたげにあたしを見ている。

「アホ兄!お茶しに来たに決まってるでしょ!」

「お茶しにねぇ」
チラッと貴島さんに視線をやってからつぶやいた。
ううっバレバレなのか。

「あんまり貴島困らせるなよ」

「こ、困らせてないもん!」

子ども扱いする大吾にムッときて、思わず大きい声になってしまった。

「貴島ぁ俺休憩入るから!」

大吾は1つため息をついてあたしを見てから、そう言って裏に引っ込んだ。大吾の言いたいことは分かる。……これだから、あたしは子どもっぽいんだ。
いくら大人っぽくしようとしたところで、上手くいきっこないんだ。
ジワリと目尻に涙が浮かぶ。やだな、ここで泣いたらホントに子どもだよ。
ぎゅっと唇を噛み締めた。涙、出てくるな。

「真希ちゃん?」

頭上から貴島さんの声が降ってくる。その声の優しさに、引っ込みかけた涙が落ちそうになった。

「待たせてごめんね」

そう言って差し出されたのは、甘い香りのする琥珀色の液体。
何も頼んでいなかったのに、出てきたそれにあたしは驚いて顔を上げた。

「真希ちゃん、珈琲苦手だって聞いてたから」

大吾の店は、豆からこだわった珈琲をメインに扱っている。もちろん、紅茶やジュースも置いているんだけど、貴島さんに釣り合うような大人になりたくて、あたしはいつも無理して珈琲を飲んでいた。

「キャンディっていう茶葉なんだけど、ミルクティにするとおいしいよ」

カップの脇に、温められたミルクが置かれる。

「ちなみにこの茶葉は自前なので、料金はかかりません」

ニッコリと微笑まれて、あたしの心臓はひときわ高い音を立てた。
貴島さん、その笑顔は反則すぎるよ。

「いただきます」

琥珀の中にクルクルと渦巻くミルク。一口飲むと、ほのかな甘さが口の中に広がった。

「おいしい」

自然と口元が緩む。
貴島さんは、

「オーナーにはまだかなわないけど、おいしい紅茶たくさん準備しておくからね」

とふんわりと微笑んでくれた。

「ちなみに、さ」

言いづらそうに貴島さんは小さくささやく。

「実は俺も、珈琲あんまり飲めないんだよね」

イタズラ好きな少年のようなその笑顔に、あたしの気持ちはゆるゆるとほぐれていった。


寒い日は、温かいミルクティが飲みたくなる。
家で淹れてもいいけど、お店で飲むのは格別に甘くておいしい。
だって。だってね――






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いいよさんからいただいたイラストからイメージして書かせていただきました!!
普段あんまり書かないテイストになってびっくりです。いいよマジック!!
20121021


 

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