「へっくしゅ…、寒い」
12月
京都 前川邸 新選組の屯所
何やら広間がざわざわとしている…
平助たちはまた副長に怒られているのか…?
そんな事を考えながら長い金髪を靡かせ、その人物は歩みを進めた。
しかし、広間の前に来た時に男たちの声のなかに、ふと高い声が混じっている事に気が付いて一瞬足を止めた。
女の子…?
思い当たるのは一人しかいない。
ばんっ…
はっとしたその人物は一気に広間まで駆けていくとその襖を一気に開けた。
あどけなさの残る見覚えのない少年の元へと彼女、弥勒は迷うことなく足を進めた。
当然その少年は戸惑う訳で
「あ、あの…、ど、どちら様ですか?」
…ここはお前の家ではない。
と普通は思う所なのだろうがそれさえも気にしない様子で弥勒は目を輝かせた。
と言っても無表情の上での多少の変化など長年付き合いのある者にしか分からない訳で、弥勒に詰め寄られた少年…いや少女は怯えあがってしまったようだ。
「貴方が千鶴?」
どうして名前を知っているのか、という顔で千鶴は首を傾げた。
無理もない。
千鶴が屯所に来てから今まで弥勒は風邪を引いて寝込んでいたため二人の接触は一切なかったからだ。
やっと熱が引いた今日、この男所帯に自分と同じく女子がいるということに胸を躍らせた弥勒は足取り軽くこの広間にやって来たのだ。
「千鶴が来てくれて嬉しい、仲間ができた気分」
「…なかま?」
きょとんとしたように千鶴は弥勒を見た。
そして一言・・・。
「もしかして…え、女の方ですか?」
「そう」
「す、すみません私、男の方だとばかり」
がんっ
その言葉を聞いた弥勒は固まってしまった。
無理もない、男に間違われていたなんて…。
「ぶっは」
そのとき弥勒の背後で誰かが吹き出す声が聞こえた。