クィディッチ

本日は皆様お待ち兼ね、寮対抗クイディッチの日です。蛇寮の応援席でドラコやパンジー達と一緒に観戦してます。周りの皆は楽しそうで、各言う私もちょっと違う意味でドキドキしてます。何にドキドキしているのかと言いますと、ハリーが箒から落ちないかが心配なんです。

あぁ…心配してる傍から。試合開始から程なくして、早速ハリーの箒の動きがおかしくなった。魔法の箒とは言え、あの動きは人為的なものだ。けれど、会場にいる選手やほとんどの生徒達は、その事には気付かない。単にハリーが箒のコントロールが上手く出来ていない様にしか見えないだろう。特に、蛇寮側の観客席では、誰もが今のハリーの様子を見て嘲笑っている。…約一名を除いて。



「ハハハッ、何だあの飛び方は!流石ポッターだ。これは落ちるのも時間の問題だな」

『本当に、時間の問題だね』



ドラコが爆笑している隣で、私だけは渋い顔をしてハリーを見詰めていた。…出切れば、傍観してるつもりでいた。でも、どうやらそうも言っていられない状況に陥ってしまった様だ。ハリーは今にも箒から振り落とされそうで、思わずチッと舌打ちを溢す。これ以上、黙って見ていられない。



「(…やるのか?)」

『(何の為に今日まで練習して来たと思ってるのさ)』



懐から杖を取り出し、ジッとハリーを見詰める。周りは歓声や野次でかなり煩いけど、念の為、極力声を絞って反対呪文を唱え始めた。スペルを間違わないよう、慎重に。クィレルの呪いを押し返せる位、強く強く魔力を込めて。

反対呪文は、かなり難易度が高い高度な魔法だ。相手の呪いが強ければ強い程、反対呪文の難易度も上がる。今回の相手は、クィレル先生であり、闇の魔術を扱うエキスパートだ。容易に呪いを跳ね返せる相手じゃない。

精神世界でのヴォルとの実践練習でも、完全に押し負かせる事は出来なかった。でも、呪いの威力を軽減させる事は出来た。ヴォルからも、実践でもある程度の効果は期待出来るだろうと、評価もして貰えたから。…大丈夫。きっと、大丈夫。

全神経を集中して、必死に反対呪文を唱えていくと……箒に片手でぶら下がっていたハリーが、箒の動きが少し鈍くなってきた所で、何とか両手で箒の柄を掴み直していた。暴れる箒に必死にしがみ付くも、まだ油断は出来ない。…流石はクィレル教授。なかなか強力な闇の魔術じゃないか。セブと二人掛かりで抑えに掛かって、箒の動きを制限させる程度しか出来ないとは。もっとも、この呪いを掛けるより、この反対呪文で対抗する方が遥かに難しいんだけどね。

人知れず、闇の魔術とその防衛術による激しい攻防戦が繰り広げられる中。ハーマイオニーはまだかと、リクが内心焦り始めた頃……暫くして、フッと、急に呪いの抵抗が無くなった。ハリーの箒の不自然な動きが止まったのを確認してから教師席の方を見ると、セブのローブが燃えていて、後ろにいたクィレルがひっくり返っていた。あの体勢…何気にヴォルデモートさん顔面強打したんじゃないか?ターバンによるクッションが無ければ即死だった!って具合に。何はともあれと、無事に終わってくれた事にホッと息をついて、漸く肩の力を抜く。ふと、視線に気付いて顔を上げると、ドラコが驚きの表情で私を見詰めていた。



「今のは、反対呪文…か?」



咄嗟に誤魔化す事も忘れて、これには私も思わず目が点になる。まさか、ドラコが試合の観戦から目を離して此方の動きを見ていたとは。しかも、ドラコに今のが反対呪文だと見抜かれるなんて、思ってもみなかった。



『……よ、よく分かったね。私が反対呪文を唱えてたって…』

「お前がポッターに呪いを掛けるとは考えにくいしな」

『よく御存知で…』



流石、闇の魔法使いの名門マルフォイ家。例え私がハリーに呪いを掛ける様な奴じゃないと知っているとは言え、ならばあれは反対呪文だと察しがつくのも、そういう対抗呪文があるという知識があってこそだ。ほう…?と、珍しくヴォルまで驚いてる位だ。

この後、この件に関してドラコは何も尋ねてこなかった。ハリーがスニッチを取って、蛇寮が試合に敗北し、それ所じゃなくなったせいもあるけど。




★★★





試合が無事に終了して、廊下が帰室する生徒達で溢れる中。リク達も当然その中に混じって歩いていた。今日はもう色々疲れたから、このまま部屋に戻って休みたいなぁ…なんて考えていた所。突然、後ろから肩を強く掴まれた。驚いて振り返ると、そこには険しい表情の赤毛君が一人と、その後ろに表情を固くしたハーマイオニーがいた。



「おい!スネイプ!」

『ロナルド。声を掛けてくれるのは嬉しいけど、出切ればリクって呼んで欲しいな……ややこしいし』



ロンからスネイプって呼ばれると、ものすごく違和感がある。あと、セブと混同されてややこしくなるからやめて欲しいです。て言うか、何でそんなに怒ってるんだ?この子……今日はまだ何もちょっかい掛けてない筈なんだけど…?



「さっきの試合、お前達がハリーに呪いを掛けてただろ!?」

『……え?』

「観客席から見たんだ。お前とスネイプがグルになってハリーに呪いを掛けてる所を!」



………。そういえば、そうだった。ここで最初にセブが疑われるんだっけ。何て言うか、色々残念で仕方が無い。反対呪文は結構頑張った事もあって、地味に傷付くなぁ。結構疲れてもいるから、尚更。反論するのも億劫な位だし。正直、そんな風に疑われると悲しくもなる訳で。…セブも、こんな気持ちを抱えるのかな。そう思ったら、余計に気落ちしてしまった。否定した所で、今のロンには何を言っても通じ無さそうだしなー…と、思っていたら。



「…ウィーズリー……お前の目は、やはり節穴だな」

「何だと…っ?!」

「スネイプ教授やリクが唱えていたのは呪いじゃない。反対呪文だ」



ドラコの正論に、ロンが目に見えて狼狽えた。取り敢えずロンに対してシレンシオを掛けようとしていたリクの動きも、思わず止まる。



「そ、そんな高度な魔法、スネイプは兎も角…一年生に出来る訳が無いだろ!?」

「箒に呪いを掛けるという高度な魔法は使えると、主張している癖にか?」

「う…」



ドラコがロンを正論で言い負かした…だと……!?いつもと違って何処か冷静なドラコに、リクは内心驚く。普段のドラコなら、間違いなく感情的になってロンと言い合うか魔法が出る所なのに…。そうでなくとも、つい先程まで敗北試合で気が立っていた筈なのに。

今日のドラコには、何だか驚かされてばかりだ。



「そもそも教授が、生徒を殺そうとする筈が無いだろう。いくらポッターが出来が悪く、生意気な生徒であってもだ。リクにしたって、ポッターを殺そうとする理由が無い」

「で、でも!自分達の寮が試合に勝つ為なら、手段を選ばないって言うなら…」

「その汚い口を慎んだらどうだウィーズリー。これ以上の不粋な憶測は、僕等に対するただの侮辱だ」



ドラコに睨まれ、漸くロンが押し黙る。



「そもそも、誇り高い蛇寮生が、考えも無くそんな卑怯な手は使わない。そんな三下のやり方で納める勝利に価値なんてない。君の方こそ、恥を知るといい」



あ、でもこの件に関しては何も言えない気もする…。口には出さないけど。

ドラコは、ロンが何も言えなくなると、今度は彼の後ろにいたハーマイオニーを睨み付けた。ビクリと、ハーマイオニーが萎縮する。



「…ミス・グレンジャー、君もだ。まさか、君までウィーズリーのデマカセに乗せられてくるとはね。君はリクの友人なのだと思っていたけど……実際は名ばかりの友人だった様だ」



かあっと、ハーマイオニーの顔が真っ赤になって。そんなつもりは、と、言い淀む。彼女自身の中にも私を疑う気持ちもあり、けれど友人として私の事を信じたいという気持ちもあったのだろう。その葛藤のせいで、今回ロンを止める事が出来なかった、と。今にも泣いてしまいそうな彼女の表情に、何だかハーマイオニーの方が可哀想になってきてしまった。



「どいつもこいつも、リクと教授に助けられておいて、とんだ言い草だな。これだから蛮族は嫌なんだ。話にならない。…行くぞ、リク」

『う、うん…』



もう話は済んだと言わんばかりに、ドラコはハリー達に背を向けてさっさと歩き始めた。慌ててドラコの後を追って、隣に追いつく。



「馬鹿な奴等だ。リクに助けられた癖に、勘違いも甚だしい」

『…ありがとう、ドラコ』

「…フン。尊敬している教授や僕の友人に在らぬ疑いを掛けられて、黙っていられる訳が無いだろう」



お前はお人好し過ぎるんだ。そう話すドラコの表情には、苦々しさが滲んでいて。相手の態度を心底彼等を嫌悪している様子だった。それだけドラコが本気で怒ってくれてるんだと気付いて、少し嬉しい様な、何だかくすぐったい気持ちになった。

 

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