飛行訓練

本日は飛行訓練の日です。飛行訓練が楽しみで仕方がない様子の一年生達は、朝からこの授業の話題で持ちきりだ。勿論、ドラコもウザい位自分がいかに箒に乗れて如何にその才能が優れてるかを蛇寮の皆にドヤ顔で語っている。面倒なので適度に相槌を返しながら若干ドラコを放置してますが、幸いドラコは気付いていないので問題はない。

そういう私は箒に乗るのが楽しみじゃないのかと聞かれれば、実はそれほどでも無かったりする。だって、幼少時代にセブの留守中に隠れて散々乗り回して遊び尽くしたし。オマケに、箒無しで空を飛ぶ魔法も実はヴォルから既に修得済みだったりする。あんまり得意じゃないし、何より周囲の目が痛々しいから飛ばないけど。

なので、敢えて何が楽しみなのかと言われれば、まぁアレが楽しみなんだよねー……っと、気付けばマダムの説明が終わった様だ。



『上がれ』

箒;ビクゥッ!!



……。何故か箒にビビられた気がする。上がれって命じたのに、肩が跳ねた感じの動作を見せただけで、私の手元迄は来てくれなかった。それどころか、心なしか箒が私に怯えて震え始めた様にすら見えるのですが……気のせいでしょうか。



「(いや、気のせいじゃないと思うぞ。箒が本気で怖じ気付いている)」

『(え〜、それって地味に凹むんですけど……仕方ないなぁ)……地獄の業火で灰にされたくなかったら今すぐ上がれ』

バシィィイイイッ!!



2回目の今度はちゃんと私の手の中にまで勢いよく飛び込んで来てくれました。な〜んだ、ただのツンデレ箒だったのか。ヴォルから何の反応も返ってこないのが気になるけど、いつもの事なのでスルーしておこう。

そんな私と箒のやり取りを見てどう受け取ったのか知らないが、傍にいたドラコが少し驚きの表情を浮かべた。



「へぇ、なかなかやるじゃないか。リクも箒に乗る練習をした事があるのかい?」

『まぁ、デッキブラシで少々…』

「デッキブラシ!!?」



魔女宅かっ!!というツッコミが恋しい今日この頃。今度TSUTAYAのネット宅配レンタルを頼んでスリザリンの談話室辺りで上映会を開いてあげようかな。参加は勿論強制です。



「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴って下さい。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上して、それから前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ――1、2の――」



マダムフーチが3のカウントを数えるよりも一足早く、ネビルは一人お空の彼方へと旅立って行かれました。見ていて非常に危なっかしい位フラフラな酔いどれ飛行です。そんなネビルを馬鹿にして笑っているドラコが楽しそうで何よりです。が、このままだとネビルの墜落は時間の問題だ。ドジッ子ネビルンの手首ポキッと事件が発生するだろう。

とはいえ、私はネビルをお姫様抱っこで受け止めてやろうとか、自分も箒に乗って颯爽と助けに来たぜ☆とドヤ顔を決めたりなんかはしない。魔女宅のキキとトンボみたいなデッキブラシ救出劇をして目立つ様な事はしないんだっ!

コソッと懐から杖を取り出し、不規則に動いて狙いを合わせにくいネビルに標的を合わせ、なるべく周りに気付かれないよう極力声を潜めて杖を振るった。



『インペリメータ!』



ネビルが箒から振り落とされた直後。見事目標を捉えたリクの魔法により、ネビルの身体は地面スレスレの所でピタリと宙に浮いて一瞬だけ止まった。…が、ネビルは地面に落ちた際に変に手首を捻った様で、酷い捻挫(恐らく骨折一歩手前)を負ってしまったらしい。結局彼は医務室へと運ばれて行った。あれかな、一度落下を止めた後直ぐにドサッと雑に地面に不時着させてしまったせいかな。どうやら彼は落下時に受け身を取るのに失敗した様だ。



「(助けてやるなら最後まで手を抜くなよ…)」

『(いやいや、最初に言ったでしょ?別に助けはしないって。ハリーがシーカーに抜擢される機会を潰してどうするのさ)』

「(お前がハッフルパフに選ばれる素質が全く無いと言われた理由がよく分かった)」



帽子にもそこまでは言われなかった筈だけど……え、ヴォルに言われたくない系の台詞である事は確かだ。ならお前にはハッフルパフの素質があったのかと元闇の帝王殿に問い返してやりたい。誠実さ?正しく忠実?私達には無縁な言葉だな。

でも、骨折じゃなくて捻挫で済んだのだから、まだマシなのでは?と思わなくもない。



「あいつの顔を見たか?あの大まぬけの」

「やめてよ、マルフォイ」

「へー、ロングボトムの肩を持つの?パーバティったら、まさかあなたが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」



ドラコを筆頭に、蛇寮生達が囃したてる。獅子寮生のパーバティ・パチルが咎めるも、パンジーが冷やかしにかかる。全く、仲が悪いのは知ってるけど、これは酷いな。ネビルが可哀想とか、少し位心配をしてあげても良いだろうに。お前がソレを言うのか?何か問題でも?



「ごらんよ!ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

『ねぇドラコ。前に私が言った事は覚えてるー?』

「な…っ」



ドラコが草むらの中から思い出し玉を拾い出した所で、声を掛けてみた。……ふむ、ちょうどドラコの手にある思い出し玉が一瞬赤くなってから透明になった所を見ると、思い出したみたいだね。こういう使い方も出来ると、思い出し玉って結構便利だね。というより面白いな。



「…っ、君はグリフィンドールの味方をする気か?」

『味方をする云々の前にJKしようか?』



ドラコは悔し気に…気まずそうに表情をしかめて此方を睨んでくる。苦虫を噛み潰した顔ってやつか。一応自覚はあるらしい。

いやね、私はただ子供の玩具だと馬鹿にしていた思い出し玉で、むしろこれだけ盛り上がってる時点で相手と同レベル(むしろそれ以下)だと思うんだ。誇り高きスリザリンの品格とやらも、所詮はこんなものか。魔術師たる者、常に優雅たれ。飛行訓練にも品格が求められるのだとワイン片手に語る遠坂時臣を是非とも見習って欲しい。元ネタ By.FATE/ZERO。

まぁ、年相応な悪意ある悪戯だと言ってしまえば、その通りなんだけどね。この辺の精神年齢がいまいち合わないんだなー常識的に考えて。JKは女子高生の略だけじゃないんだぜオーケー?



「……分かったよ。それじゃリクの寛大さに免じて、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな――木の上なんてどうだい?」



どの辺に私の寛大さが免じられたのか理解し難い提案だ。返せと要求してくるハリーに対し、ドラコは更にハリーを挑発。ここまで取りに来いよ、ポッター!訳すと、ここまで僕を捕まえに来いよ、ポッター!アハハハ、待ってードラコ!夏の浜辺よろしくいつからドラハリな展開に?



「(お前の頭は大丈夫か?)」

『(大丈夫だ。問題無い)』



ヴォルからもう一度聖マンゴ病院に戻るかと訊かれたが、不治の病なので無駄さ。

この後はお約束の展開。ハリーはアクロバティックな方法で無事に思い出し玉を奪還した後、マクゴナガル教授に連れて行かれる際に私と偶然目が合った。顔を真っ青にしているハリーに対し、優しい私は笑顔でGJと返してやったのである。獅子寮に新たな名シーカーの誕生だぜ!

ちなみに、もしこのハリーの勇姿が私が見れない様な事態が発生した場合には、ヴォルに魔力を供給して一時的に実体化(アレだよ、秘密の部屋の時にトムがやってたのと同じ感じ)させて、ハリーの勇姿をしかとその目に焼き付けさせ、その記憶を後程ペンシーブで観賞させて貰う計画を立てていた位だ。真剣に。



「(そこまでして見たかったのか!?)」

『(愚問だぜ!!)』



何はともあれ、生で見れて良かった。余は満足じゃ。

 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -