導師と守護役達の日常(1/6)

導師イオンの執務室前に佇む一人の導師守護役。コンコン、と部屋の扉をノックして、部屋の主から「どうぞ」と返事を貰ってから中へと入った。



『失礼します。そして久し振りだね、イオン』

「え?……!サク!」



中に入るなり目許を隠すバイザーを外すと、私が誰か気付いたイオンが笑顔で迎えてくれた。こんにちは、ローレライ教団第2導師のサクです。

部屋の中を見る限り、どうやら今はアニスも居らず、イオンは一人でいたらしい。



「久しぶりですね。けど、その格好は…」

『ああ、モースに見付かると面倒だったから、問題ないように変装して来たの』

「そうでしたか」



納得した様子で頷くイオンにサクは笑い掛ける。何だかんだで、結構活躍してるよね……この導師守護役の衣装も。気に入って色々とデザインも改造しちゃったし。用意してくれたクロノ様々だ。



『体調はどう?仕事とかも進んでる?』

「はい。問題はありません」

『うん、イオンが元気そうで何よりだよ』



ちなみに、彼…イオンとは既に顔見知りだったりする。何を隠そう、イオンにダアト式譜術を教えたのは私だからね。久しぶり、というのは、彼に譜術を教えて以来今日まで、しばらく会えていなかったから。



「今日はどうして此処に?」

『いや、不足書類があったから、イオンの方に回って来てるのかと思って取りに来たんだけど……それらしいの混じって無かった?』

「そうでしたか。けど、僕が先程目を通した書類の中にその様な物は見当たりませんでしたが……」

『う〜ん、ここはハズレだったかぁ…』



目的の物が無いと知り、少しガックリと肩を落とす。絶対こっちに紛れたんだと思って来たのに……



「せっかく取りに来て下さったのに、すみません」

『いや、イオンが謝る事じゃないでしょ』



申し訳なさそうな顔をするイオンに苦笑しながら、サクは彼の頭を撫でる。人が良いというか何と言うか……クロノだと絶対にしない返答だ。この部屋に入った時にも感じた違和感……同じ部屋の同じ場所に"導師イオン"が以前と同じ様に座っているのに、こうしたクロノとの違いを見付ける度に、感じてしまう。ま、イオンはクロノと別人だから当然なんだけど、つい…ね。



「どなたか導師守護役の方に頼んで探して貰ってはどうですか?サクにも専属の方がいますよね」

『ん〜、そうしょうかとも思ったんだけど、ちと微妙だったからね…』



サク専属の導師守護役である彼らは、二人とも他の役職と掛け持ちをしているから、余分な仕事を頼むのには少々気が引ける。オマケに、今回の場合書類はイオンの所にあると思っていたから……彼らに此処に取りに来て貰うとなると、少々ややこしい事になる。



「そういえばサク付きの導師守護役は…」

『うん。シンクとアリエッタだからさ。色々と都合がよろしくないのよ』



イオンはシンクの事は知らないけど、シンクはイオンの事を好ましく思ってない上に、ヴァンからイオンと接触しないようにって言われてる。

アリエッタもイオンがクロノとは別人だと本当は知ってるけど、表面上は知らない振りを続けてる上に、入れ替わった事に気付かれない様なるべくイオンとの接触は控える様にとモースやヴァンから言われている。

従って、彼らに頼むのはあまり得策ではないのだ。もっとも、イオンの所に無かったので、今から他の場所を当たって貰う分には何ら問題は無い、とは思うのだけれども。



「すみませんサク。僕の思慮が足らなくて…」

『いや、私も他の人に頼めば済むのを頼まなかっただけだから。別にイオンを責めてる訳じゃないよ?』



またしてもシュンと項垂れてしまったイオンに、サクは慌ててそんな事はないと話す。そんなに気を遣わなくて良いのに、イオンは本当に良い子過ぎるよ。

……いや、この子の場合、自分はそうでなくてはいけないと、思い込んでいるから余計にだろう。自身が"レプリカ"であるという負い目から、無意識下で。

きっと、イオンの中では未だに個が確立していない。シンクと違って、日々導師イオンを演じ続けなければいけない分、自我も芽生えにくいのだろう。

けど……それじゃあやっぱり、寂しいと思う。



『それに、私が此処に来たのは書類の為だけじゃないし?』

「え、そうなんですか?」

『うん。久しぶりにイオンにも会いたかったし』

「!」



そう言えば、イオンはかなり驚いたらしく、瞳を丸くしていた。数回瞬きをした後、イオンはフワリと嬉しそうに微笑んだ。



「…有り難う御座います」

『いえいえ。…私もイオンと同じ"導師"だからさ、何か困った事があったりしたら気軽に言ってね。……私は"あなた"の味方だから』

「…はい」



何処か安心した様子で素直に頷くイオンを見ながら、サクは笑みを深めた。少しでもこの子の支えになれたら……と、願いながら。



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