強さを求めて(5/5)

訓練も終わり、疲れたから自室に帰ってゆっくり休もうかと思ったが、導師服をイオンの自室に置きっぱなしにしてきた事を思い出した。別に自室に戻れば他の着替えはあるんだけど……まぁ、忘れないうちに取りに行っておいた方が良いよね。

イオンの執務室前までたどり着き、扉を数回ノックする。が、返事はない。

いないのかな……けど、せっかく来たのに引き返すのも何だかなぁ………よし。取り敢えず、着替えだけ持って帰るか。



ガチャ

『(開いてる?)失礼しまー……っ、イオン!!?』



部屋の扉を開けてみると、机の傍で倒れているイオンを見付けた。慌てて彼に駆け寄り、名前を呼び掛けてみるも反応が鈍い。顔色も悪く、グッタリしている……素人目に見ても、これは不味いと直ぐに思った。



『っ…誰か、医者を…』

「……待って…」

『!』



弱々しいイオンの声にハッと彼を見れば、イオンはうっすらと目を開けて此方を見上げていた。どうやら意識を取り戻したらしい。そんな彼は、震える手で机の方を指差した。



「二番目の、引き出し……薬…」

『…分かった』



イオンの言葉を聞き取り、引き出しを開けに行くと中には確かに薬が入っていると思われる処方箋の袋があった。サクは直ぐ様薬を持ってイオンの傍へと戻り、ライフボトルを取り出してイオンを抱き起こしながら服薬を促した。

暫くの間、イオンは苦し気な呼吸を繰り返していたものの、その後薬が効いてきたらしく、徐々に状態は落ち着いていった。



「……有り難う。もう大丈夫だから」

『良かった…』



とは言うものの、イオンの額にはいまだに脂汗が滲んでおり、こうして会話をするのも辛そうだ。それでも、先程よりは幾分かマシになったようで、サクはホッと胸を撫で下ろした。

見付けた時は心臓が止まるかと思ったよ…



『もう。無理しちゃ駄目だよ』

「別に無理はしてないさ。ただ、そろそろ身体にガタが来てるだけでね」



イオンの言葉に、スッ…と心臓が冷たくなる。預言に読まれているイオンの死は……もう直ぐそこまで迫っているというのか。



「今は薬で騙し騙しやってるけど……いつまで持つか」

『医者は、なんて…?』

「"手の施しようがない"ってさ」



ダアトでも一番腕の立つ医者が出した結論だよ。豚も何とか僕を生かせようと必死だったみたいだけど……既に万策尽きてるって訳さ。

そう自嘲気味に話すイオンの表情が痛々しくて、思わず表情を歪める。だからイオンは……尚更諦めていたのか。預言に読まれていた死を、覆す事は不可能だと。

そして、導師イオンのレプリカが作られた。



『……アリエッタは、知ってるの?』

「…あの娘は何も知らなくて良いんだ」

『イオン……っ!?』



一体何処にそんな力が残っていたのか。イオンは私の服の胸元を掴むなり、グイッ、と彼の青ざめた顔の近く迄強く引き寄せた。



「あの娘に言ったら殺すよ?」




意思の強い瞳が、それだけは譲らないと物語っていた。



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