強さを求めて(1/5)


『強くなりたい』



イオンの執務室で紅茶を飲みながら、私はいきなりそう彼に話を切り出した。報告書も回って来てるだろうし、予め予想はしていたのだろう。イオンはそんな私の脈絡の無い言葉に驚く様子もなく、紅茶を口許に運びながら「それで?」と先を促してきた。



『護身術を学びたいんだけど……誰か良い人紹介して欲しいんだ』

「護身術ねぇ……君が導師守護役を付ければ必要無い気もするけど」



イオンの言う様に、導師が護身術を身に付けずとも、常に自分の傍に導師守護役を置いておけば解決する話だ。むしろ本来ならば此方が正規のスタイルだし。

しかし、今後の事を考えると……自分の身は自分で守れないと厄介だ。単独行動が出来ないのは痛い。



『専属の導師守護役も付ける予定だけど……私自身も、強くなりたいから』



シンクの方は、既に今日からヴァン直々に戦闘の指南を受けている。彼と一緒にヴァンに自分も鍛えて貰うという手も考えたけど……それは止めた。

まぁ色々と理由はあるけど、ラスボス相手に指南を乞うのも如何な物かとね。ヴァンをツテに、リグレット辺りを派遣して貰えそうな気もしたんだけど……似たような理由で却下。

下手すると会話中にボロが出そうだし、手の内を知られるのもちょっとね……



『せめて、自分の身は自分で守れる様になりたいの』

「……それが強くなりたい理由?」

『まぁそんな所』



イオンは暫く何か考える素振りを見せた後……クスリ、と何やら楽し気な笑みを浮かべた。



「……分かった。特別に紹介してあげるよ」



……やっぱりヴァンに頼んだ方が良かったかもしれない。イオンの笑みを見た瞬間、サクは思った。



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