想いは風に揺れて(5/10)

シンクを怒って、けどお礼も言って、それから沢山謝らなきゃって、思ってたのに。彼が無事な姿を見たら、考えていた筈のそんな言葉達は全部頭から吹き飛んでしまった。彼に抱き付いて、ただひたすら、私は幼い子供の様に泣きじゃくって。そんな私にシンクは戸惑いながらも、何も言わずに背中を撫でてくれた。シンクから「ごめん」って謝られたけど、私は泣きながら首を横に振る事しか出来なかった。本当に謝らなきゃいけないのは、むしろ私の方なのに。

あの後、私とシンクは元居た病室へと強制送還された。アッシュはと言うと、「兎に角。話はそこでしろ」と此方に釘を刺してから、医師を呼びに何処かへと行ってしまった。彼が部屋から出て行って、暫らく経った頃。漸く涙が止まって、少しだけ気持ちも落ち着いてきた。今現在、この病室内にはベッドに腰掛ける私と、その斜め横に私と同じく座っているシンクしかいない。



『…シンクは、知ってたんだね。私の身体の事』



ジェイド達から聞いたと話すと、シンクは言葉を濁す事なく頷いた。ジェイドとシュウ医師曰く、シンクはかなり早期の段階から私の状態を知っていたらしい。身体の事を隠す私を……シンクはずっと、気に掛けてくれていたんだ。



『隠してて、ごめんなさい。シンクはずっと心配してくれてたのに、大丈夫だからとか言って…あんな事になって…』



自分で言ってて、なんだか情けなくなってくる。思い出したせいか、また泣きそうになってしまい、膝の上で拳をぎゅうっと握り絞めて、なんとか堪えた。



「…ごめん。僕のせいだ。僕がサクを騙そうとしたから…」

『ううん。それは違うよ。私自身、考え無しに無茶をしたせいだから』

「でも…」

『それに、シンクがいなかったら…私、死んでた』



死の気配を間近に感じた時の事を思い出すと、今でもゾッとする。あのまま、本当に死ぬと思った位だ。実際に、死ぬ所だった。当然、覚悟なんてしていなかったし、きっと自分には一生出来ないと思う。今までにも何度か危ない場面はあったけど……自力で何とか出来なかったのは、今回が初めてだった。



『ジェイドも同じ事を考えて実行してた可能性は高いし、アッシュが先走ってた可能性もある。その場合でも、あの状況は変わらないよ』



尚も否定しようとするシンクの言葉を遮り、だから……と、サクは言葉を続けた。



『…助けてくれて、ありがとう』



顔を上げて、シンクに向かって、なんとか笑ってみせる。俯いたままお礼を言うのじゃ、気持ちが伝わらない気がしたから。泣き腫らした酷い顔になってるせいでか、シンクの表情は晴れなかったけど。そして、お礼の他に……言わなきゃいけない言葉は、もう一つある。



『それから…ごめんなさい。シンクを巻き込んだ上に…危うく殺し掛けた』



忠告だって、してくれていたのに。心配ばかり掛けて、彼の気遣いを無下にして。そして何より…結果として、私はシンクを殺しかけた。相手を殺し掛けたのは、私の方なのだ。正直、謝って済む事じゃない。



『傍に居てってお願いしておいて、その癖何も言わずに心配させて。挙句に、こんな目に合わせて…私、シンクに酷い事してばかりで……』



シンクは導師守護役だから、導師である私の我儘にも応えてくれるし、傍に居てくれている。導師と守護役という立場に甘んじて、私を護りたいと言ってくれる彼のやさしさに、私は甘えてしまっていたんだ。

そもそも、シンクが傍に居てくれるのは、私が彼にお願いしたからだ。ヴァンの許へ行かないで。傍に居て欲しい…と。そうして私は、彼の選択肢を、意思を、自由を縛った。シンクにシナリオの様な道を歩んで欲しくなくて。シンクの為、なんて言ってるけど、半分位は建前で。本音は、私自身がシンクに傍に居て欲しかったからに他ならない。私の独り善がりを押し付けた、ただの傲慢だ。

そして今回。そんな私の傲慢が…シンクを死に追いやろうとした。

全部全部、私のせいだ。



『…ごめんなさい…』



シンクの意思を無視して、最悪彼の選択を、危うく無駄にしてしまう所だった。私の意思を押し付け、傍にいろと強要し、彼の自由を束縛して、優しさも彼の意思をも無碍にして。挙句に殺し掛けたんだ。

最低、だと思う。これじゃあ、シンクを飼い殺すヴァンのやり方と、結局は同じじゃないか。シンクを助けた事で、私はシンクを利用しているだけなんじゃないか。シンクに自由をあげたかった筈なのに。あくまで、彼が自分の意思で立って歩いて行けるようになるまでの間を、見守るだけだった筈なのに。約束だって、したというのに。私は私の自己満足の為に、気付かない内に…彼を縛ってしまっていた。



『私はいつも、自分の我が儘を…シンクに押し付けて。自分本意に、シンクの自由を縛ってしまうから……これ以上シンクを巻き込まない為にも、いい加減…シンクから離れるべきなんだよね…』

「サク……」

『分かってる。傍にいちゃ駄目なんだって…分かって、いる…のに……っつ』



これ以上シンクを巻き込まない為に、彼を不幸にさせないためにも、私はいい加減彼から離れるべきなのだろう。シンクの足枷になるばかりの私は、シンクにとって重荷でしかない。これ以上彼を縛らず、彼を自由にしてあげるのが一番正しい道なのだろう。

それなのに…



『…ごめんなさい……っつ』



それでも私は、シンクと離れたくない…と。思ってしまう。

傍に居て欲しいと、願ってしまう。

彼に赦しを乞いたいのか、それとも我が儘な自分を突き放して欲しいのか…。感情がぐちゃぐちゃで、自分がどうしたいのかもよく分からない。

束縛しておいて、こんな無責任な弱音を吐いて。どうしたらいいのかも分からない。

この期に及んで。私は馬鹿だ。



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