バチカル闘技場(3/8)

バトルロワイアル形式の筈なのに、参加者一同は一斉に私達の所に向かって飛び込んできた。参加者の誰もが、何よりも私達を早々に潰したい模様。もしくは、チャンピオンに挑みたいらしい。

実を言うと、これは闘技場側の狙いであったりもする。

闘技大会に参加する以上、怪我を負おうが運悪く死んでしまおうが、闘技場主催者側はこれらに対する責任は一切負わない。と、参加規約にも名義されてはいるが、今回の様な乱戦では、相手によっては手加減出来ずに死傷者が出てしまうリスクは当然ながら高くなる。ルール違反では無いとはいえ、死者が出てしまうのは闘技場側も出来れば避けたい所。

だが、今回の大会には闘技場での経験が少ない者、中にはノリと勢いだけで参加してしまった様な素人も、混じっている模様。参加人数が多過ぎるのは、そういう事だ。

闘技場に慣れていない者同士や、血の気が多い者、あえて弱者を甚振る事を好む様な輩とシロート連中が乱闘になりでもしたら、血生臭い試合になる事は避けられないだろう。しかし、その点相手が私達なら、その様な心配は一切無いと、闘技場側は踏んでいるらしい。今迄の戦歴からも、私が試合で死者を出した事はないからだ。そして、そんな私が仲間として連れて来た彼らもまた、そこいらの参加者ならびに実力者共とは、格が違うと見抜いているのだろう。無駄に信用されてる気もするけど、事実その通りでもあるという。私としても、ここ(闘技場)には世話になってるからね。それなりに礼を尽くしはするさ。



「ほ、本当に出やがったぜ!まさか、伝説のチャンピオンと一戦できるなんて、夢の様だ!」

「神出鬼没にして最強の守護役!最強にして不滅!」

「幾たびの戦場を越えて無敗!」

『ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う』

「…って、それ何処のUBWだよ!!」

『その身体はきっと剣で出来ていた!』



ガキイン!と、金属音が響いた。突撃してきた参加者達が構える様々な武器の矛先に360度囲まれ、一斉に突き刺され、あわや串刺しになったかと思われたサクだったが、そんな奇跡は起こる筈もなく。次の瞬間、サクのオーバーリミッツで挑戦者達は一斉に吹き飛んだ。あれだ、黒ひげ危機一髪で、黒ひげじゃなくて刺さってる剣の方が吹き飛ぶ様な感じです。炸裂するシンクのメタツッコミや参加者達からの攻撃をものともせずに、サクはニィイイと笑みを深めた。



『詠唱完了!いくぜ無限の剣製・Unlimited Blade Works!!』

「って、今の詠唱だったの!?」

「つーか、固有結界の詠唱を唱えたにも関わらず、繰り出してる技は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)とか、英雄王の技じゃねえか!!」

「いや、でも宝具じゃなくて全部の武器が模造品な辺り、無限の剣製って表現する方が近いかもね」



サクの詠唱完了と共に、空間に突如として数多の武器が現れ、参加者達の頭上に容赦なく降り注いだ。勿論、絶賛メタツッコミ中のシンクとアッシュ、そしてクロノと私には味方識別のお陰で当たらない……筈!

通常、この攻撃を避けれない者、防ぎ切れない者達は、全員漏れなく串刺しの刑に処されてしまうものだが……そこは、サククオリティ。威力が加減されている為、全員串刺しにはなっておらず、武器を全て弾き飛ばされている、もしくは破壊して無力化させているのどちらかで済んでいた。それもその筈、この譜術の原型はただのピコレインで、ピコピコハンマーの代わりに様々な武器の形を模して出現させたものであるからだ。

ちなみに、実剣で表現する場合、ブラウニーの様に投影魔術やFATEに出てくる宝具の複製は私には出来ないから、テキトーにフォミクリーで再現します。

弱者との戦闘でも相手を殺さず無力化させ、手加減出来るレベルになる為に。乱戦での戦い方、雑魚戦での手加減の仕方を習得する為に、私は闘技場に通い詰め、経験を積んできたのだから。相手を殺さず、手加減をしながらも、戦闘不能にさせる、なんて。カンタビレ第六師団長には甘いと一蹴されたりもしたけど、これが私なりの覚悟だ。…そんな甘い覚悟が通じない様な輩が相手の時には、無論、私も容赦はしない。…言っている事が矛盾しているのは、分かってる。けど、ケセドニア北部戦の時の様な後悔は、もう二度としたくないから。

……っと、いつの間にかシリアスな感じになっちゃったね。気を取り直して、改めて現状を確認してみる事にする。

先のピコレイン(無限の剣製ver.風)により、参加者達の大半は削れた様だ。気絶した者を除いて、攻撃が当たって怯んだ者、武器を失った者達は、漏れなく全員シンクかクロノ、そしてアッシュのいずれか三名により、沈められていた。残ったのは、三分の一程度……へえ、結構頑張ってるね。



『……って、弱らせた他人の獲物を横取りされたし!!』

「相手を完全に戦闘不能にさせないと、倒した数には含まれないからね」

「ハッ、テメエで決めたルールに踊らされてる様じゃあ、ザマァねえな」

『くっそー、クロノにアッシュめ…!この屈辱、復讐日記に書いてやる』

「ちょっと、死神みたいな事するのは止めてくれる?本気で引くから」

『じゃあ私はシンクの御給料を差っ引いてやる!』

「酷いパワハラを見た」



訴訟も辞さない。と宣言しながら、他の参加者達を蹴り飛ばしていくシンクである。他の面々も似たようなもので、相手をばっさばっさ薙ぎ倒し蹴散らしながら雑談を交わしていたりする。勿論サクも、BCロッドを振り回し、物理攻撃と譜術攻撃の両方を駆使しながら数を稼いでいる。



「くそっ、流石は俺等のクィーンだ。一筋縄じゃいかねえぜ!」

「こうなったら、もう一人のひょろっちそうな譜術師のガキから倒して…」

「誰がガキだって?雑魚風情が」



標的を変更した相手から狙われたクロノだったが……剣で斬り掛かろうとした相手の剣は、クロノを捕える事無く空振り、この隙にクロノは相手の懐にスッと入り込むと、相手の下顎に掌底破を突き上げ、完璧なカウンターで返した。その直後、クロノの背後に迫っていたもう一人の相手は、クロノが逆手に持ち替えたケイオスハートを鳩尾に突き込まれ、衝撃に息を詰めていた。背後を向いたままのクロノから、まさか攻撃をされるとは思っていなかったのだろう。強烈な一撃を真面にくらった相手二人は、そのまま地面に昏倒してしまった。

クロノに倒された二人を前に、クロノを接近戦で潰そうとしていた他の連中が思わず怯み、動きが止まってしまった所を、クロノが見逃す筈も無く…



「アカシック・トーメント!」

「「「「ぎゃああああああ!!?」」」」



全員仲良く、クロノの譜術の餌食となっていた。

この譜術師もチャンピオン同様、接近戦に格闘技戦まで使いこなせるのかー!!という、実況中継が場内に木霊している。病弱な身体から健康体へと変貌を遂げたクロノに、抜かりはない。そもそも、ダアト式譜術自体が、格闘技と譜術を合わせた戦闘術技であり、その使い手である彼に格闘技が習得出来ない筈が無かった。接近戦で魅せた、ケイオスハートを使った棒術の方もしかり。今では譜術だけではなく、こんな風に棒術と格闘技をも組み合わせたコンビネーション技すら使いこなしてくるのだから、本当に死角がない。…本当、クロノが敵じゃなくて良かった。



「ガラクタはガラクタらしく、大人しく片付けられていなよ」

『そしてこの決め台詞である。クロノ恐ぇー…超恐ェェー』

「く、クソッ!こ、こうなりゃフザケタ恰好をしたこの馬鹿の方だけでも…」

「誰が馬鹿だこの屑共があああああ」

「ぎゃあああ!?何だコイツめっちゃ強えええええ!!!?」

<<おおっと!?このアビスシルバー、見かけ倒しのネタキャラではなく、本当に強かったー!!?>>

「誰がネタキャラだ!誰がっ!!」

「その台詞、鏡を見てから言えば?」



トン、と背中合わせに立つアッシュとシンク。普段の彼等なら、実に絵になるカッコいい場面なんだけど…いかんせん、アビスシルバーと鷲嘴の仮面という構図では……一体コレは何の特撮でしょう。シンクの方は兎も角、最早アッシュの存在がギャグでしかない。



「六神将が一人、烈風のシンクとお見受けする。貴殿と手合せさせて頂いても宜しいですかな?」

「うわっ、なんか面倒臭そうな奴(侍モドキ)が寄って来たんだけど」

「俺と違って、六神将のネームバリューは伊達じゃねえ様だな」

「アンタもそのフザケタ称号を変えたら、僕と同じ目に合うんだけどね。悪の貴公子、銀血のアビスシルバー=サン」

「六神将、鮮血のアッシュだっ!お前もハッ倒すぞ!?」

「ええい!拙者を無視するでない!…貴殿のその仮面、剥がさせて貰おうか!」

「フン。出来る物なら、ね!」



明らかに居合い抜きの構えを取っている相手の挑発(必死のアピールとも言う)に対し、シンクは相手に向かって走り出した。通常、居合い抜きを武器とする相手の懐に向かって真向から飛び込んで行く等、自殺行為でしかない。そして、刀の間合いに完全に踏み込んで来た今のシンクの状況は、まさに袋の鼠と言えよう。そんなシンクの愚行を、相手は好機と捉え、勝利を確信しほくそ笑む。



「(これは…討ち取ったり!)」



抜刀からの一閃。目にも止まらぬ速さで繰り出された相手の太刀は、しかし……烈風の名を冠す彼を捕える事はなかった。シンクの反応速度は速く、刀の軌道を見切り、ギリギリの距離で躱し、そのまま更に相手との距離を詰めて肉迫する。しかし、相手も多少は手練れだった様で、直ぐ様刀の刃を斬り返し、二太刀目がシンクの仮面を狙う。初手を躱されても動じず、臨機応変に対応しようとしてきた事に対し、シンクは……仮面の下で、僅かに口角を上げていた。…よく鍛錬された太刀筋だと、素直に褒めてあげよう。けど…



「遅いよ」



バキィンッ!!という衝撃音と同時に、刀の刃が砕け散った。刃の破片に反射して映った、自身の背後にいるシンクの姿を捕えた時には、既に手刀を加えられた後だった。シンクとのスピード勝負に完全敗北した相手が地に倒れ伏す中、シンクはフッと息を吐き出す。

斬り返しの刃を拳で刀の弱い所を狙って叩き折り、相手が動揺した一瞬の隙に意識も刈り取ってやった。速さに自信があったみたいだから、勝負に応じてやったっていうのに……口ほどにもない。居合い抜きにしろ斬り返しにしろ、シグムント流の使い手達と比べると、全然遅いし。その程度の太刀筋でこの仮面を剥ごうなんて、それこそ愚の極みでしょ。過去、戦闘中にこの仮面を剥がす事が出来た相手は、ガイとルーク……そして、サクの三人だけだ。…っていうかさあ、



「各上相手に勝負を挑むなら、自分の名を名乗るのが、礼儀ってもんじゃないの?」



本当、話にならないね。とシンクが嗤う。うわ、やっぱりシンクカッコいいなオイ!正々堂々と正面から突っ込んで来た剣闘士を相手に、此方も正々堂々と正面から腹パンをめり込ませるという、実に漢前な一撃を浴びせながら宣う、サクの心の声である。



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