束の間の休息(6/8)

スパに来て頭にタオルを巻くタオラー魂とか、ダサいぞアッシュ…かと思いきや、入浴後に彼が着替えた浴衣姿は普通に似合ってましたという。そして本能と欲望の赴くままに、アッシュの長髪をポニーテールにしてあげると、素晴らしい事になりました。何という副眼!眉間の皺が無ければ完璧です。嗚呼、ナタリアに見せてあげたい!余談だが、このヘアースタイルをセットする為に、この間タイムストップを使用しました。究極の禁術の無駄遣いである。



『よし、卓球で勝負だアッシュ!』

「ほう。この俺にラケットを投げつけて勝負を挑んでくるとは、いいだろう。臨む所だ!」

「あんなに渋ってた癖に、何だ関だで結構楽しんでるよね…アッシュ…」

「ノリノリ、です」



アッシュの方も、大爆発の説明を改めて聞いて勘違いが解消されて、色々吹っ切れたのかもしれない。テンションがおかしい気もするが、まあいいか。これはこれで楽しいし。



「ギンジー!僕も卓球やってみたい!」

「いいですよー。じゃあ、フローリアンはおいらと一緒にやろうか」

「うん!その次はイオンと対戦だよ!」

「えと、すみません。僕は見学だけでお願いします…」

「イオン様、大丈夫ですか?先程の温泉でのぼせてしまわれた様でしたが…」

「すみません。僕も少し、はしゃぎ過ぎてしまったみたいです」

「もし今より御辛くなられる様でしたら、早めに申して下さいね』

「はい。有難う御座います、フレイル」



フローリアンはすっかりギンジに懐いてしまった様だ。あと、フレイルは流石テクニカルダイバーの称号は伊達じゃない救助…じゃなくて介抱っぷりだね。

そんなこんなで、じゃあせっかくだからトーナメント方式でやろうよという話になり。ゲームは開始された。ちなみに私とアッシュの対戦の勝敗は、途中から不正行為も交えて、トリップ補正で身体能力値MAXなサクの勝ちでした。流石に第五音素の加護を使って俊敏さをチートにしようとしたら止められたから自重したけどね。で、フローリアンVSギンジのチームはフローリアンの勝利。お兄さんなギンジがフローリアンに勝ちを譲ってあげたのかと思ったが……いざ、決勝戦で彼と戦ってみたら、それは違いました。日頃からサーカス団の一員として多芸を極めているフローリアンに、チート抜きで勝てる筈がありませんでした。フローリアン曰く、ナイフを弾き返して的に突き刺すのと似た感覚でボールを狙い打てば簡単だよ、との事で。何この子ちょっと恐い。



『流石に連戦は疲れたなあ…ちょっと休憩〜』

「お疲れ様…です。サクも飲む?」

『ありがとうアリエッタ…て、はうあ!口の周りに牛乳瓶の淵の形に牛乳が付いてる!これはメニアック!事案発生!』

「アンタのその思考回路と変態発言が一番の事案だよ。あと、アリエッタに近づくな変態」

『うっ……、クロノが汚らわしいゴミ蟲を見る様な目で私を見てくる…』

「大丈夫です。サク様はゴミ蟲なんかではありませんし、むしろ御可愛らしいですよ」

『!?か、かわ!!?』

「フレイルは目に美化フィルターでも掛けてんの?。(でもサクが変態なのは何気に否定しないのか…)あと、サクはお世辞に動揺し過ぎ」

『慎ましやかな日本人を舐めるなよ』

「アタシのそれなりに実力のある部下達を模擬刀一本でなぎ倒して圧勝する様な女が、慎ましやか、ねえ…」

『き、教官には言われたくないです…っつ』

「あん?殺る気かい?」

『誤字ってますから!



あれ?私っていつから弄られキャラになったんだろう。こういうのはアッシュの役目なのに。アッシュに恨みがましい視線を送ってやろうと思い立ち、姿を探す。と、代わりに目に止まったのはシンクの姿だった。



『シンクには、好きな人っているの?』

「…教えないよ」

「…へぇ。否定しない所を見ると、どうやらシンクにはいるみたいだね。好きな人」




……。さっき言ってたのは、本当に誰の事なんだろう。あれからからずっと気になって仕方がない。でも、言いたくない事を無理に言わせたくはないし…。シンクにウザがられるのもちょっと嫌だしなぁ。



「……サク?」

『…っえ?』



驚いて顔を上げると、いつの間にかシンクが近くに居た。さっきまであっちに居た筈なのに…。どうやらシンクがこっちに来たのにも気付かずに、考え込んでしまっていたらしい。



『あ、ごめん。何だっけ?』

「いや別に、まだ何も言ってないけど」



シンク曰く、ボーッと此方を見てたから声を掛けてくれたんだとか。そんなにボーッとしてただろうか…?いや、していたかもしれない。少なからず自覚があるので苦笑するしかない。



「僕に何か用?」

『ううん。ぼーっとしてただけで何もないよ?』

「……サクまでスパでのぼせたの?」

『かもね。ちょっと扇風機に当たって来る』

「え?」



シンクの好きな人って誰?

そう、訊きたいのに。その疑問を再度口にする事を躊躇ってしまい、何となく避けてしまった。彼が答えてくれないだろう事も分かってる。むしろ、プライベートな事だし、あまり踏み込み過ぎるべきじゃない事だって理解している。…自分自身、聞いてしまうのが恐かった事もある。

けど…このまま何も聞かずにいられる自信も、正直言うと無い。

なら、どうする…?

一度立ち止まり、後ろに振り返ってもう一度シンクの方を見る。クロノとフローリアンの三人で話を始めた彼等の様子を見詰めた後、サクはぐっと拳を握り締めた。



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