生まれた意味(9/16)


『ルーク。今の貴方には、迷いが多過ぎます。自分が生きている事にすら迷っている様では……絶対の意志を持ったヴァンの、足許にも及ばない』

「…!?な、んで…!!?」

『剣術の強さ、弱さではありません。気持ちの問題です。そんな心の在り方では……いずれ殺されてしまいますよ?』




あの時、ユリアが…サクが言った通りだった。陛下達からの話を断っていれば、あの場から逃げ出していれば……俺は、死なずに済んだかもしれないのに。

レムの塔の最上階の中央にて差し込まれたローレライの鍵を、ルークは両手で強く握り締めていた。超振動を発動する為に、周囲の第七音素をローレライの鍵を使って鍵の許へと収束させていく。ルークの足許には譜陣が現れており、第七音素は驚くべき速さで瘴気と共にルークの周りに集まってきていた。

同時に、レムの塔の傍に漂着させられたフェレス島からは、第七音素が溢れ出していた。レプリカで構築されていた部分がゆっくり溶ける様にして形を失っていき、光の粒に解けた第七音素が交じり合って、ルークの許へと昇ってゆく。

自分の周囲に瘴気が集まってくるのをはっきりと感じながら、ルークは歯を食い縛った。間もなく自分も、この光の一部となって、この星を回る音素と同化して、消滅するのだ。恐怖に、足が震える。震えるなと叱りつけても、足は言う事をきかない。



「(……死にたくない。死にたくない!死にたくない!俺は……俺はここにいたい!誰の為でもない……俺は生きていたいんだよっ!

だけど……っ!)」



目を閉じ、心の中で必死に叫び続ける。けれど、自分の指先が一瞬透けて光となって消えかかっているのが見えて、ルークは息を呑む。自身の音素崩壊は、既に始まっていた。それでも必死に、ただひたすら第七音素を集め続けていたが……



「(駄目、か…)」



やはり、自分ではどう足掻いても…力が足りないらしい。集めた第七音素が、鍵を中心に水面に広がる波紋の様に波打ちながら、レムの塔の最上階を包む程に広がり、そのまま縁から下へ水の様に流れ落ちていく。どんなに第七音素を収束させても、思うようには集まらず、段々拡散していってしまっている。それでも諦めずに作業を続けていたが…ついには力尽き、ルークはその場に両手膝を着いてしまう。"まともに第七音素を集める事すら侭ならない"なんて…。やはり、能力が劣化している自分には無理だったのだろうか。このまま、サクやシンクに言われた様に、無意味に無駄死にしてしまうのか…。ジェイドもこの異変に気付いたが、彼の呟きはルークに届かない。ここまでか……そう、ルークが諦めかけた時だった。



『…ルークッツ!!』

「…ッ!?」



ハッとして我に返ると、自分の隣にはサクがいて。ローレライの鍵を掴むルークの手の上に、サクの手が重ねられた。何処から現れたのか、いつ来てくれたのかは分からない。ルークはサクが現れた事に安堵すると同時に、焦りを覚えた。…駄目だ!サクを巻き込む訳にはいかない!その為に、彼女に黙って自分達は出て来たというのに、これでは意味が無い…と。本当は泣きそうな位嬉しいのに、素直に喜べなくて。死への不安と恐怖に、ルークの心は張り裂けそうだった。死にたくない、助けて欲しい、でも、自分の代わりにサクに死んで欲しくない。なのに…



「何で…っ」

『死なせないよ』

「…っ!」

『ルークもアッシュも…私自身も。誰も、死なせたりしない!』



まるで、自分の心情を全て見透かされたかのような言葉に、その声の力強さに、ルークは思わず泣きそうになった。

ローレライの鍵を掴むルークの手を介して、サクは意識をルークの中に向けて集中すると……探し物は直ぐに見つかった。どうやら宝珠はローレライの鍵に反応して、既にルークから分離しかけている様だった。そのまま手繰り寄せる様にして彼の手の中から宝珠を取り出し、鍵の中に移した。ローレライの鍵が完成した所で音素の逆流が収まり、再び第七音素が正常に収束され始めた。レムの塔を覆い包む様にして拡散しつつあった音素フォニムが、一気に引き戻されてゆく。



『ルークはこのまま鍵を使って、音素を集める作業に集中して。私は不足分の第七音素の補充に回るから』

「……っ、分かっ、た!」



キツそうに表情を歪ませながらも、ルークが再び立ち上がったのを確認してから、サクも改めて準備に取り掛かる。本当は、ローレライの鍵を使って此方を先にやるつもりだったが、今ルークからローレライの鍵を手放させる訳にはいかない。今のルークは、鍵の収束する力によって辛うじて乖離せず保っている状態だ。今鍵を手放せば、あるいは発動を解こうものなら、彼は身体崩壊を起こして乖離する。だから、苦肉の策として……同時に、私はもう一つの【鍵】を使う事にする。

ルークから少しだけ離れて、祈るようにして両手を胸元で組み、サクは意識を集中させる。直ぐにローレライの輝石が第七音素に反応し、呼応する様にして強く輝き始めた。ユリアはローレライとの契約の証に、ローレライの鍵を授かったという。そして、ローレライと新たに契約した私もまた、ローレライから第二の鍵とも言える、ローレライの輝石を受け取っている。鍵と同等の力を宿した代物だ。このチート能力を使わない手はない。



「…っ、サク様!どうなさるおつもりですか!?」

『譜石帯に浮かぶ譜石を地上まで引き寄せて、第七音素として作戦に利用します!!』



ローレライの加護を最大限に引き出しながら、サクはジェイドに向かってそう叫んだ。

預言を詠んだ際に生成される譜石は、基本的に第七音素の塊だ。そしてその昔、ユリアは惑星預言を山が出来る程詠み上げ、譜石帯にばら撒いたという。…今回の作戦では、惑星を覆う規模の瘴気を消すのだ。ならば、惑星の周囲を覆う譜石を譜石帯から集めて第七音素に変換すれば、第七音素も十分事足りるだろう。昨晩ディストに頼んで夜通し調べて貰い、単純計算で見積もって貰った結果、計算上いけるだろうとGOサインを出しても貰った。創世暦時代の偉人質が絶望的な瘴気の問題を残してくれたかと思えば、ちゃんとユリアが希望も残してくれていたとはね。とんだパンドラの箱である。

譜石帯から譜石を集めるのは、惑星のエネルギーを利用した惑星譜術を使えば、不可能ではない。この方法も、昨晩の内に禁書を漁り直して自力で譜術式を組み立てて来たので問題はない。創世歴時代にユリアがローレライの鍵を使って、譜石を宇宙に打ち上げたんだ。その逆に、譜石帯から引き寄せる事足だって、出来ない道理はない!

手加減無しのフルスロットルで惑星譜術を使えば、十分いけると思うんだ。残念ながら実際に試した事は無いけど、計算上は問題無いし。何気に譜術の二重詠唱になるが、何、私のTPさえ切れなければどうという事はない。ソードダンサー戦やレプリカネビリム戦でも似た様な事をこなしてきたんだ。やって出来ない事ではない。

金色の羽根を輝かせ、その身に纏うローレライの加護を最大限に引き出せた所で、サクは直ぐ様詠唱を開始する。



『天から降る怒りは神の子の大地。無数の星は浅い川の水面を揺らす。神秘の島にて天の力にひれ伏さん…』



詠唱の調べと共に、新たな譜陣が足許に展開される。遥か上空の音素の流れが大きくうねるのを感じながら、音素の流れを掴み、一気に束ねてゆく。惑星全土に音素を巡らせるセフィロトの力を利用し、此方に第七音素を循環させるのだ。この場がレムの塔最上階ということもあり、宇宙に近い分、地上でこの術を発動させるより、負担はかなり軽減されている。そして、もともと第七音素には互いに引き合う性質がある。その性質を利用して、此方に譜石ごと第七音素を引き寄せるのが狙いだ。聡明なネイス博士と第二導師様が計画した作戦に、抜かりはない!



『星の記憶を宿せし音素の欠片よ、流星と成りて、彼の地より来たれ!スコアティック・メテオスォーム!』



ジェイドも習得すれば使うであろう、無数の星を召喚する無属性の惑星譜術、メテオスォーム。けど、今回は無属性の音素ではなく、第七音素で構成させた術式で発動させている為、正式なメテオスォームでもなかったりするのだが……まあ、そんな細かい事は至極どうでもいいよね。上手くいってるんだから問題ない。

空より流星群が降り注ぎ、いくつもの光の弧となって落ちてくる。大きな譜石は隕石として。隕石の欠片や、落下途中の大気圏で燃え尽きて完全に音素に分解されてしまった物達も含めて、第七音素の流れに引き寄せられて、全てここに収束させられる。絶え間なく隕石が落下してくる現状ですが、一応味方識別が機能しているので、此方に被害が出る事もないです。隕石の中でも大きすぎる塊に関しては、ルークが操る第七音素と私が操る第七音素に干渉させ、この間で生じる擬似超振動を駆使して、ある程度分解させて貰ってますが。流石に。

私が大量の第七音素を供給して、ルークは第七音素を収束させる。これで、原作のシナリオと同等の状況、条件になった筈だ。瘴気も消せず、ルークもここで死んでしまう最悪の事態は免れるだろうと。再び第七音素がルークの許へ急速に集まり始めたのを見て、サクが内心ほっと安堵したのも束の間。



「ぐっ…」

『ルーク!?』



ルークが再び膝を着き、その場に倒れ込みそうになる。体力が限界なのだろう。だが、私も惑星譜術の発動を中断する訳にはいかない。流石に、これ以上の譜術の重複発動は不可能だ。惑星譜術の発動を維持するのに手一杯で、ルークの方を助力する事は出来そうにない。しかし、ここでルークに無理をさせると乖離が早まるリスクも高くなってしまう訳で。不味いな…と、サクの表情に焦りが浮かび始めた時。



「チッ、世話の焼ける奴らだ!」

「アッシュ…!?」



ルークの手を、後ろから現れたアッシュが掴んだ。アッシュの協力により、力を増した第七音素の光が増す。



「俺も手を貸してやる。…さっさと済ませるぞ」

「アッシュ…有難う」

『恩に着るよ!』



剣を握り、背中合わせに立ったルークとアッシュの身体が、ひとつの輝きに包まれる。やがて、世界中の瘴気がキュビ半島目指して移動を始めた。薄紫色の空は千切れ、青空が覗く。…そろそろ頃合いだろうと察したサクも、継続し続けていた惑星譜術の発動を止めて、二人の手に自身の手を重ねた。

瘴気を一極集中させた所で、三人同時に超振動を放った。光が爆発し、星を覆っていた瘴気が中和され、完全に消滅した。



- 418 -
*前 | | 次#

(9/16)

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -