栄光の大地(2/12)

栄光の大地の周囲をアルビオール二号機で旋回し、ルーク達が偵察に向かった結果。栄光の大地を覆うセルパーティクルの発生が確認され、それが防壁の様になっていて島に近付く事が出来ない……という返答がルークに回線を繋いだ際に彼から返ってきた。これ以上近付くのも無理そうだし、取り敢えず近くの街の宿で今日は休もうか。という話になり、あの地点から一番近かった街へとやってきました。流石に今日は皆疲れているので、今夜はこの街の宿でひとまず泊まる事になった。

宿にて各々部屋を取った後、私も取り敢えず疲労感や眠気と死闘を繰り広げながらシャワーを浴びて着替えを済ませた所で、取った部屋の中で一番間取りが広い大部屋…クロノやイオン達がいる部屋へとやってきた。今後の話し合いも兼ねて、ルーク達も後程こっちの部屋に来て再度集まる予定だ。



『それにしても、イオンも時々突拍子もない事するよね…』



ソファーに腰掛けて、クッションを抱えながらサクは改めて今日の事を思い返す。

本当に、なんてタイミングで飛び込んでくれたんですかイオン君。予定外の事態に軽くフリーズしちゃってフルボッコにされちゃったよ私。君はミュウツーの逆襲のサトシさんですか。私の為に争うのはやめて!なヒロインポジションの方がしっくりくる彼ですが、やはり彼も男の子だった様です。あ、でも中の人的には電気ネズミだったか……なんて内心ボヤきながら、サクはイオンを何処か遠い目で見詰める。



「それはサクの影響じゃない?」

「むしろ、イオンもアンタには言われたくないと思うよ」

『仲良いなお前ら』



何だこの緑っ仔達は。シンクとクロノのタッグでイオンを擁護し始めるなんて。仲が良いのは非常に嬉しいんだけどさ…



「サクだって、決闘の事を僕には内緒にしていたじゃないですか」

『う…そ、それはそうだけど…』

「なら、互いにこれ以上は言いっこ無しですよね?」



あれ?微妙にイオンが黒い気がする。一見普通に見えるけど、私には何だか…ハッ!やはりクロノの影響か!?有無を言わせぬ笑顔、とまでは言わないけど……うん。これは、私というより、クロノの影響を大いに受けてる気がしてきたよ…!



『てか、見てたのならクロノも止めようよ…』

「冷静に考えなよ。イオンには味方識別があるだろ?譜術攻撃は当たらないさ」

『当たらなくても衝撃で音素乖離のリスクはあるからダメだって!!』



そうでなくても、まだ音素の結合が不安定かもしれない…とか、少なからず不安はあるというのに。チーグルの森の件といい、今回のイオンとクロノの件といい……本当に、緑っ仔達って時々突拍子もない無茶をしようとするよね。まぁ、彼等のご指摘どおり、私が言える事じゃないけど。



『それに、物理攻撃は味方識別に関係無く当たるよね!?』

「じゃあ、あのタイミングでアニスが攻撃を中断出来なかったと仮定して、その状況下でアニスの攻撃がイオンに当たるのをアリエッタが許したと思う?」

『いや、それはアリエッタの実力からして有り得ないのは私も分かってるけど…。あの状況なら、アリエッタは最悪イオンの盾になってでも阻止しただろうし』



あの場でその最悪の状況を想定したからこそ、アリエッタはアニスへの攻撃を中断しようとしなかった。アニスの攻撃からイオンを守る為に、アリエッタは譜術の発動をあえて止めなかったのだ。アリエッタもアニス同様、イオンを死守した上で相手を迎え撃つ覚悟でいた為だ。今回はアニスに軍配が上がったが、アリエッタがイオンをアニスから守るという、逆の結果になる可能性も十分有り得ただろう。クロノの膝枕ですやすやと気持ち良さそうに眠るアリエッタの頭を、クロノが優しい手つきで撫でている。畜生クロノ、そこを代われ。



「それに比べて、アンタときたら……隙を突かれてあっさり撃沈するし」

『うぐ……』



一つ間違えたらアンタの方が死んでたよ?クロノの冷たく容赦のない一言に、私は再び撃沈した。今日のクロノは特に容赦がない。いや、怒られて当然の無茶振りをした挙句のあの結果じゃあ、そりゃあしつこく怒られもするよね……グスン。



「反省してる?」

『してます…』

「今だけでしょ」



今でしょ!ならぬ、今だけでしょって……。全くもってシンクの言う通りだから、何も言えません。まさか、クロノとシンクの連携タッグで怒られる日がくるとはね……隙を生じぬ二段構えとは、まさにこの事か。ちょっと泣いてもいいですか?な気分になってきた所で、ふと、シンクの手が私の頬に添えられて、顔を上げさせられた。そのままシンクの親指が、私の目尻の近くに触れて…急にそこにピリリとした痛みを感じた。…ああ、そういえば、さっきシャワーの時にも同じ所が染みてた気がする。



「顔に傷まで作って……もう少しズレてたら失明してたよね」

『うん。あれには、私もヒヤっとした…』

「…馬鹿サク」



どうやら、バイザーが弾かれた際に切れていた様だ。全身打撲と比べて大した痛みじゃないから気付かなかったけど、シンク曰く、髪に隠れて結構出血もしていたらしい。

シンクの手が頬に添えられたまま、彼の指先が再び目尻の傷口に翳される。すると、ほわり…とした暖かいぬくもりと共に、傷口が癒えていくのを感じて。すぐに治癒術で治してくれた事に気付いた。おぉ…何気に無詠唱じゃないか。



『(……。えっと、シンク…?)』



切り傷特有のヒリヒリとした痛みも取れて、治癒術も終わった筈なのに。シンクの手が頬から離れる気配がない。それどころか、シンクの手の中に包まれたまま、見えない傷跡の上を親指で何度かなぞられる。……そんなに入念に確かめなくても、浅い傷だから痕が残る心配もしなくて良いのに。ちょっとドキドキしながらシンクの顔を見上げると、彼は眉根を寄せて此方を見詰めて…否、若干睨んでいた。



「前から気になってたんだけど、どうしてサクはそんなに自己犠牲精神が強いの?ルーク達だって、所詮は他人だろ」

『他人だけど、仲間とか…友人って関係でしょ?それにこれは、自己犠牲精神なんて、そんな綺麗な感情じゃないよ』



もっと浅はかで、思い上がった傲慢な感情だ。物語の結末やシナリオを変えたい。ルーク達を助けたい。愛されヒロインになりたい訳じゃないけど、せっかく最強補正が付いてるんだから、力を使ってみたい。どこまでも自分本意で、とても子供染みた、不愉快極まりない冒涜的な願望。やり方はアレだけど、本気で世界を救おうとしているヴァンより悪質で、必死に世界を救おうとしている彼等にもルーク達にも、とても失礼だ。この世界をゲームの様に感じているとは言わないけど、同等なレベルでこの世界に生きている人々に失礼だ。私がやっている事は所詮、独り善がりの偽善でしかないのだから。



「……っ、何で…」

『…?シンク……?』



ちょっとだけ自己嫌悪に浸り掛けてた所で、シンクの声にふと現実に引き戻しされた。改めてシンクの顔を見上げてみたら、彼は苦痛を堪える様な、何かに耐える様な、そんな表情で私を見ていた。…どうしたんだろう?何だか、今日のシンクはいつもと違って、少し様子が変だ。さっき迄は怒っていた筈のシンクの瞳が、今は悲痛な色に揺れている。……シンクの泣きそうな顔、久し振りに見たかもしれない。…否、数ヶ月前にも…私は彼に今と同じ顔をさせてしまった所だった。

地殻に落ちた時も、ネビリムとの戦闘で負傷した時も。実力的には大丈夫だろうって分かっていても、シンクはいつも私の事を心配してくれていた。今回の決闘でも、確かに何度か危ない場面もあったし、最後は本当に助けに入って貰った位だ。今回の事はシンクにとって、かなりのプレッシャーだったのかもしれない。そう思ったら、なんだか申し訳なく感じると同時に……どうしょうもなく、胸が苦しくなって。心配させたくなかった筈なのに、シンクが心配してくれてる事が嬉しくて。何故だか、今すぐシンクを抱き締めたい衝動に駆られた。



『……シンクは心配性だなぁ』

「サクが楽天的過ぎるんだよ」



彼の手が震えている事に気付いて、添えられたままの彼の手にそっと自身の手を重ねた。彼の手の暖かさに、ひどく安心する。いっそ、このまま眠ってしまおうか…。心地良い微睡みに浸り、うつらうつらしてきた所で、



「…ゴホン」

『「!?」』



咳払いが聞こえてハッと我に返ると、アッシュが何とも微妙な顔をして視線を逸らしていた。「顔赤くない?」とクロノに指摘されて「うるせえ」と半眼するアッシュ。チッと舌打ちするシンクの声が聞こえて、サクは一気に赤面した。別にやましい事は何もしていない筈なのに、自分でも訳も分からないまま、無償に恥ずかしくなって、羞恥に悶える結果となってしまった。



「……で、お前達はいつ迄そこにいる気だ?」

「あ、バレてた?」



アッシュが扉の方へ半眼すると、扉が開いて廊下側からアニスがニヤニヤ笑いながら登場した。可愛くテへペロまでしている辺り、いつもの調子に迄すっかり復活した模様。仕返しのつもりかコノヤロー。そんな彼女を筆頭に、後ろから続々とルーク御一行が入室。申し訳なさそうにしつつも顔が赤らめるティアは可愛いな。ナタリアも見てみたガールの称号に恥じない積極性ですね。そして目を泳がせていたり楽し気だったり苦笑気味な男性陣諸君、お前等全員揃って覗き見かよ。



『ごめん。ちょっと軽くアカシックトーメントぶっ放して良い?』

「聖堂の天井の次に宿の屋根も吹っ飛ばしたいなら止めないけど?」

「ちょっと待て。聖堂の天井の次にって、あの時の犯人はお前だったのかよ!?」

『私だけじゃないもん!シンクも共犯だもんっ』

「責任取ってサクがフォミクリーで修繕したんだから別に今更もういいじゃん」

「才能の無駄遣い過ぎるだろ!しかも一晩でやるとかお前はジェバンニか!!」



顔を両手で覆って羞恥に俯くサクと、面倒臭さが相俟ってテキトーな合いの手を返すシンクに対し、アッシュの渾身のツッコミが炸裂した。そんな茶番劇を、和やかに見守るアニスとイオン。



「わぁー…これでローレライ教団の七不思議がまた一つが解明されましたね、イオン様」

「ええ。まぁ、七不思議の内半数以上の正体は、きっとサクが犯人だとは思いますけどね」



何やってんだよローレライ教団。ルーク達の心の声である。



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