栄光の大地(1/12)

瘴気で霞む空に浮かぶ、巨大な物体。思ったよりも随分と近くに現れたなぁ…なんて思いつつ、サクも他の者達と同様に、空を見上げていた。今のフェレス島は浮き島になっている為、どうやら知らぬ間にホド島の付近まで流れ着いていた様だ。



「どうなってるんだ!あれは一体……!」

「栄光の大地…って、ヴァンは言ってたけど、あれはホド島のレプリカだよ」

「な…!?じゃああれはホドなのか!?」



驚愕の表情を浮かべるガイに対し、シンクはアッサリと答えを明かした。モースが栄光の大地って名付けたのかと思ってたけど、実際の所はどうやらヴァンの方が命名者だった模様。新生ホドにしておけば良いものを、わざわざ栄光の大地って名付けるとかさ。ヴァンの奴もなかなかの廚二病だよね。そして意趣返しにしろ皮肉にしろ、ホドにこだわる辺りが私怨乙!



「あの島が本当にホドのレプリカだとしたら、あれはヴァンの計画していた、レプリカ大地ってことになるぜ」

「その通りだよ。どうやらヴァン不在のまま、ついに計画を実行に移し始めたみたいだね」



シンクの話に、一同は絶句する。首謀者は最近行方を眩ませたリグレットやラルゴ…と考えるのが妥当だろう。あとはヴァンの同士気取りで教団を抜けた残党連中とかかな。恐らく、ヴァンがまだ生きている事を知っての行動だろう。ヴァンの指示によるものかは、さて置き。リグレット達辺りが中心になって、事を進めた可能性は高い。否、ヴァンが居なくなった後も、彼の同志や部下達によって計画は止まる事なく継続されていた……と言うのが正しいか。

アリエッタやシンクは彼等の中から早々に抜けてしまった為、あくまで計画の段階までしか知らないらしい。故に、詳しい現在のあちらの内情を聞くならディストだ。表向きは未だに計画には携わってる筈だし、おそらく今も浮上作業に伴いあそこにいるだろう。



「レプリカだとしても、周囲の爪のような対空装置を考えると、製造されたのはかなり前なのではありませんか?」

「ええ。恐らく海中で島に防御装置を施していたのでしょう。そしてセフィロトを利用して上空に押し上げた」



ガイが食い入る様にして栄光の大地を凝視し続ける傍らで、ティアもまた、疑問の声を上げた。その問いかけに肯定したのは、ジェイドだった。二人の会話を聞いていたルークもジェイドの方へと振り返る。



「セフィロトは……外殻を押し上げる力を失ってたんだろ?」

「セフィロトすらレプリカなんです。分かりますか?ホドが消滅する前の状態に戻っているんですよ」



第八セフィロト…並びにパッセージリングがレプリカで複製され、セフィロトを再び機能させたと仮定するに。あの島はセフィロトツリーに支えられて、あの位置に浮かんでいる事が推測される。これらの仮定から導き出された新たな問題に気付き、ティアが サッと青ざめる。



「……待って下さい。他の場所も、セフィロトごとレプリカを作るのだとしたら……」

「ええ、ティア。あなたの予測通りになります」

「何が起きるんだ?」

「レプリカ大地による、外郭大地の再現。さらに厄介なのが、音素との干渉による大地の消滅…」



クロノの言葉に、ルーク達が一斉に彼の方へと振り返った。絶望を映す彼等の表情を愉しむかの様に、クロノは嗤う。

被験の大地とレプリカ大地の音素干渉により擬似超振動が発生し、被験の大地が消滅。さらに、セフィロトの復活によって記憶粒子が発生する事により再び地殻振動が活性化し、魔界の瘴気の泥海に被験者の大地は沈む。



「最終的にはレプリカ大地のみが残り、被験者の大地は滅亡する。そうなったら僕等に手の打ちようも無くなり、ヴァンのレプリカ大地計画の勝利って訳さ」



もっとも、そのレプリカ大地もレプリカ製造が間に合えば……の話だけどね。最後にそう付けたした彼は、やれやれとでも言う様に肩を竦めてみせた。




「まるで他人事の様に仰いますのね」

「物事を客観的に見て判断しているだけですよ、ナタリア姫」



少し咎める口調のナタリアに対し、クロノはニコリと微笑んだ。態とらしくも恭しく述べるクロノから、死霊使いと同じ臭いがするのは、気のせいだと思いたい。

擬似超振動による大地の消滅が先か、大地が瘴気の海に沈むのが先か、瘴気蝕害で人類が死滅するのが先か。結構なチキンレースだけど、加えて向こうは犠牲を厭わないからね。総人口の半分しかレプリカを作れなくても、レプリカ大地が半分の面積しか完成出来なくても、それも止むを得ないって割り切りそうだし。割り切る…というより、捨て置く感じかな。ヴァンの場合は。



「大佐、どうします?上陸してみれば、色々分かるんじゃないですか?」

「ジェイド、ノエルに頼んで、あの空に浮かんでる島へ行ってもらおうぜ!」

「危険な気もしますが……まあいいでしょう」



チラリ、と一瞬此方を見た後、ジェイドはアニスとルークの提案に了承した。あれか、私やシンク達が止めようとしないのを見て、大丈夫そうだとでも判断された気がする。シンクも同じ事を思った様で、何とも嫌そうに眉根を寄せている。



「話聞いて無かった訳?何の準備も無しに、いきなり敵陣に乗り込むとか……こいつら正気?」

『えーっと…うん。まぁ、大丈夫じゃない?百聞は一見に如かず、とも言うし』

「ま、何かあった時は海に埋葬位はしてあげればいいんじゃない?」

「それは遠回しに何もしないって事だよな?」



助けに行くどころか、骨を拾ってやる気すら彼には無いらしい。イオンと同じ笑顔でサラッと毒を吐くクロノに、成り行きを静観していたアッシュも思わず表情を引き吊らせる。本当、クロノは他人には結構厳しいよね。幸か不幸か、此方の会話はルーク達の耳には入らなかった様で、サクは内心かなり安心していたり。



「それじゃあ、今からちょっと行って来るよ。イオンも、危ないからサク達と一緒に居てくれ」

「分かりました」

『了解だよ……っと、その前に』



早速行こうとするルーク達に再度声を掛けて、足を止めて貰った。スゥ…と一度深呼吸をしてから、BCロッドに第七音素を高める。グランドクロスで多少は回復もしたとは言え、完全回復とまではいっていないだろう。お詫びも兼ねて、ルーク達に治癒術を掛けておいた。ついでに自身の右足と痛む肋骨付近にも、応急処置程度に治癒術を掛けておく。他は比較的に軽傷みたいだし、自然に治るのを待つ事にする。そうして、負傷者全員に治癒術を掛け終えた所で、今まで密かに維持していたローレライの加護も解いてしまう。



『…ふぅ。これで良、し…?』

「!サク!?」



一息ついて力を抜いたら、加護を解いた反動の為か、負傷のせいか、立っていられなくなって身体のバランスを崩してしまった。アリエッタの悲痛な声が聞こえる……と思ったら、またしてもシンクが咄嗟に支えてくれた。軽い眩暈にも見舞われて、一瞬意識が遠退き掛けたけど、シンクの腕に掴まりながら何とかやり過ごす。無理もない。かなりボロボロだもんね…今の私。流石に限界みたいです。



「だ、大丈夫か?」

『大丈夫だよルー…「大丈夫な訳無いだろ」



ルークに苦笑いを溢していたら、そのままシンクにひょいっと抱き上げられた。…って、



『ちょ!?シンク!?!』

「ろくに歩けない癖に文句言わないでくれる?」

『いやいやいやいや』



これって憧れのお姫様抱っこじゃないか!?嬉しいけど…嬉しいけど!かなりの羞恥プレイで公開処刑モノじゃなかろうか。



『重いでしょ!?』

「そりゃあね」

『…今、心にインディグネイションをくらった気がする…』

「あっそ。…て言うか、サクの命が軽い訳ないでしょ」

『……。…!!?』



平然とした顔して何を言い出すんだこの子はっ!?喜んで良いのか何なのか。混乱のあまり、自分でもよく分からない羞恥に駆られてしまい、シンクの顔を真面に見る事も出来ず。取り敢えず、落とされない様にシンクの服を掴んで、大人しく俯くしかなかった。

ルーク達がポカーンとする中、結局私はアルビオール初号機の中へまで運ばれてしまった。イオンやアリエッタはにこにこ笑顔で、クロノには鼻で笑われながら見送られた。解せぬ。



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