鮮血と烈風(6/8)

いきなり改まって、何を訊いてくるのかと思ったら。



「お前はアイツの事をどう思っているんだよ」

「サクは僕の存在意義だよ」



そんな分かり切った事を問うてきたアッシュに、シンクは即答を返した。クロノやフローリアン達の様に、サクは自身の恩人……というだけの認識とは、少し違う。サクは僕の存在意義であり、生きる意味であり、世界の全てだ。サクが僕が生きる事を望んでくれているから僕は存在し、逆にサクが僕の死を望むなら、僕は迷わずこの命を捨てるだろう。

被験者の代用品にすらなれなかった出来損ない。本来なら価値はないその存在に、存在する意味を与えてくれたのは、他でもないサクだから。



「随分はっきりと答えたな…何の迷いもなく…」

「何引いてんのさ。アンタやルークがヴァンに心酔してたのと大差ないだろ」

「俺とアイツを一緒にすんじゃねーよ」



思わず眉間に皺が寄ってしまったアッシュである。オマケに、ヴァンの手駒としていいように使われていた頃の自身や、当時のルークの様子を思い出してしまい、さらに眉間の皺が深くなってしまった。アッシュ自身、自分はあまり気が長くない自覚はある。しかしここでキレて話を流してしまっては意味が無い為、何とかこの苛立ちを紛らわせる為に珈琲を飲んで溜飲を下げる。

…つーか、シンクの場合は自覚があるだけに、ヴァンを盲信してたルークより性質が悪いだろ。シンクの素性や過去に関して、既に話には聞いている。その辺の事情を考慮すれば、サクに存在意義を見出すのは、自然な流れなのかもしれない。



「お前は…アイツの守護役も兼任でやっているんだったな」

「そうだけど…え?今更何?」

「そもそも、アイツは強い。だからお前達以外の守護役が付かない事も”特例”で免除されてるんだろう?」



専属の守護役が二人だけという本来ならありえない現状は、暗黙の了解の基に成り立っているらしい。アリエッタやシンクといった実力が確かな六神将が守護役に付いているという異例が考慮されての事だ。モース達はサクの実力を知らないが、サク本人たっての強い希望とカンタビレ第六師団長の口寄せもあり、承諾をもぎ取った…と、当人からも話を聞いている。当時現場に居合わせたクロノ曰く、決め手は『預言に導師が襲われると詠まれない以上、危険は及びませんよ』というサクの魔法の言葉で預言信者の老害共を黙らせたんだそうな。………。何気にこの頃から既に教団を牛耳ってたんじゃねーか…?アイツ……



「そんな強かな奴を、お前が守る必要あんのか?」

「例え必要が無くとも、サクを守る事が僕の役目だからね。関係無いよ。今日みたいな場合もあるし」

「あぁ……」



何処か遠い目をしているアッシュの意見は尤もであり、シンク自身も正直言うとアッシュと同感である。…が、それとこれとは話が別だ。シンクは導師サク付きの導師守護役であり、彼女を守護するのが義務なのだ。…否、例え義務じゃなかったとしても、サクを守る事は自分の意志で決めた事でもあり、この役目を他人に譲る気もない。

サクが尊守派の連中を言い包めた主張に関しても、あれは嫌味を込めた詭弁に過ぎない。そもそも、サクは預言は絶対ではないと主張する、改革派寄りの考えを持っている。つまり、サクの言葉の裏を返せば、預言に詠まれていなくても危険が及ぶ可能性はあるという事に他ならない訳で。やはり、護衛はあるに越した事はない。というのが、シンクの見解だ。

でも、どうやらアッシュが言いたいのはそこじゃなかったらしい。



「守護役のお前の役目だから、導師のアイツを守る…か。確かに、それは理にかなっている。確かに今日みたいな事もあるからな、あの馬鹿の場合。だが……そうやってお前、事あるごとに導師と導師守護役っていう関係を逃げ道にしてねえか?」



逃げ道にするも何も、守護役として、導師である彼女に危険な目にあって欲しくない。ましてや、危険に自ら首を突っ込んで行く彼女に心労を重ねる事は、当然じゃないの?

……そう、反論しようと思ったのに。何故かその言葉は続かなかった。

胸に引っかかった、違和感のせいで。

先程までと違い、即答してこなかったシンクの反応の変化にはアッシュも気付いており、アッシュは更に言葉を畳み掛ける。



「じゃあ訊くが、何でお前は守護役になったんだ?何故サクを守ろうと…いや、守りたいと思った?何故アイツの役に立ちたい?何故恩返しをしたい?……その起源になっている感情は、何だ?」

「それこそ、レプリカが求める己の存在意義……ってやつだよ。まあ、所詮被験者には分からない感情だろうけどね」

「確かにそれもあるだろうな。だが、お前の場合……根底にあるのは、別の理由じゃないのか?」

「別の理由?」



いきなり核心を突くような話になってきたな……別にいいけど。温くなってしまった珈琲に口を付けながら、シンクは怪訝に眉を寄せた。アッシュがこんな深い所まで、話を持ちかけてくるのは珍しい。むしろ、初めてな気がしてきた。



「何でサクがイオンやルーク達と話してるだけで苛々する?仲間と楽しく話しをしてるだけだろ。お前を悪く言ってるわけでもないのに?」

「……何が言いたい訳?論点もズレてるし」

「いいから考えてみろ」



…これ以上、アッシュのペースに乗せられたまま尋問誘導に掛けられるのは不味いと、直感が警鐘を鳴らしているのに。ここで引くべきだと思うのに、何故か引けない自分がいて。アッシュの言葉の続きを待つ自身に……シンクは戸惑っていた。



「お前がイラつくのは、面白くねぇからなんだろ?あいつが自分以外と楽しく喋ってやがるのが。それは何故だ」



……どうして、だっけ。そもそも、サクに拾われて、最初に感じた想いは何だった?



『っ……良かった…』



ああ、そうだ。笑って欲しいと、思ったんだ。不安気な顔より、泣きそうな顔より、笑ってる顔が見たくて。思えば、これが最初に芽生えた僕の自我だったのかもしれない。



『私と一緒に……来る?』



それから、サクと一緒にいきたいと思った。僕に手を差し伸べて、生きる意味を、与えてくれた人だったから。

あの頃は、こんな風に疑問を感じたりもしなくて、自分の感情もろくに理解していなかった。でも、今ならあの時自身が抱いた思いの正体も、分かりそうな気がする。

サクに笑って欲しいと、サクと一緒に行きたいと…その先の未来を一緒に生きたいと思った、その感情は……




「それはお前が、あいつを好きだからだろ」

「…は?……っつ!?!」



考えに耽っていた事もあり、一瞬アッシュに何を言われたのか理解出来なかったシンクだったが……アッシュの言葉がまさに答えだと気付き、理解した瞬間、衝撃のあまり絶句した。



「な、何言ってんの!?いきなり頭と同じ位顔まで真っ赤になってるけど大丈夫?」

「だあ〜クソッ、いい加減認めやがれ!サクがイオンやルークと楽しそうに笑ってんのを見てるとムカつくのも、アイツらに嫉妬したからだろ!あと、お前も人の事言えねえ面してるからな!」

「ばっ、馬っ鹿じゃないの!?」

「てめえの方こそ、俺に皆まで言わせてんじゃねえよ屑がっつ!!」



ヤバい、声が上擦った。それに心臓って、こんなにも煩くなるモノなのか。どうしようもなく、胸がドキドキしているのが分かる。顔に集まる熱を、自分ではどうする事も出来ない。互いに赤面する男二人とか何この状況。今なら羞恥で死ねるんじゃないだろうか。もはや互いにヤケクソになっているが、その事を相手に指摘する余裕は今のシンクには無かった。



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