覚悟の決闘(6/19)

皆々様ごきげんよう、導師守護役ユリア・フェンデ奏士こと第二導師サクですよ。このメンバー、そしてこの人数に対して、私一人で戦うとかね。何だか今ならラスボスの気持ちが分かるよ。確かにこれはプレッシャーが半端ないです。完全に数の暴力だよコレ。逆の立場になるとちょっと泣きたくなるわ。ま、そうも言ってられないから私も腹を括りますか。

とりあえず詠唱に入り、右手に持つBCロッドに第四音素を収束しながら、相手の出方を窺う事にする。陣形的にもメンバー的にも、前衛はルークとガイ、か。譜術師を直接叩くのは確かに戦闘の定石だしね。そうして迷いながら斬りかかって来たルークに速攻で左手でセイントバブルのカウンターをかましてみた。おいおい、躊躇い過ぎだよ。しかも今のはモロに入っちゃってたし。クリティカルヒットだよ。水塊による衝撃で咳き込み膝を着くルークには脇目も振らずに、続いて譜術障壁を展開する。ティアが譜術攻撃を仕掛けて来たのだ。その隙にナタリアがルークに治癒術を…という算段か。譜術防壁を展開したまま、今度は反対側から斬り込んで来たガイの剣をBCロッドと新たに展開した二つ目の譜術障壁で受け止める。



『私に斬りかかって来れますか。女性恐怖症は改善されてきてる様ですね』

「ああ、まだ震えが止まらないが…そうも言ってられないんでね」

『それでこそ、ガルディオス伯爵』



譜術障壁を解除し、左手を振り翳してタービュランスを発動させれば、回避の為にガイが引こうとした所で女性恐怖症の彼の腕をワザと掴み、僅かに身を竦ませた彼の背後を取った。



「……ッ!!」

『…流石に、まだ抵抗がある様ですね。弱味に付け込まれ無い事を願いますよ?』



再度タービュランスを繰り出して今度こそガイを吹き飛ばしたら、詠唱中だったティアに直撃してしまった。すまない!と短く謝りながら素早く態勢を立て直し、咄嗟にティアへと手を伸ばしているガイ。まだまだ動きがぎこちないが、確かに女性恐怖症は徐々に改善されてきてるね。まあ、私に攻撃を仕掛けて来れてるし、余計な心配だったのかもね……と。



「ガイ!ティア!…くそっ」



あ、親友と嫁を攻撃したからルークが怒った。譜術障壁でルークの剣を受け止めながら、サクは相手の様子を観察する。うむ、怒った顔はアッシュによく似てますね。

ちなみに、ガイの剣術の太刀筋は、彼と同じシグムント派のカンタビレ教官からも何度か食らった経験あるので、体で覚えてるし。アルバート流の剣術も、アッシュと手合せしてきた経験があるから、次の動きの予測は容易い……ていうか、行動パターンがアッシュとルークって何気に同じだし。だから、これらの流派の対処法は心得てる訳です。



『ルーク。今の貴方には、迷いが多過ぎます。自分が生きている事にすら迷っている様では……絶対の意志を持ったヴァンの、足許にも及ばない』

「…!?な、んで…!!?」

『剣術の強さ、弱さではありません。気持ちの問題です。そんな心の在り方では……いずれ殺されてしまいますよ?』



ヴァンに、被験者に、世界に。人柱を強要されたら、貴方は頷いてしまうのでしょう。この為に生まれたとか、大義を理由に託けて。

今まさに瘴気を消す為に自分が消える事で世界を救えるんじゃないかと思い詰めているルークには、図星だろう。現に、戦闘中にも関わらず、ルークは驚いた顔をして固まってしまっている。動揺が顔に出ているルークの剣を譜術で軽く弾き返せば、彼は苦渋の表情を浮かべながらも、再び此方に斬りかかってきた。…やっぱり、一度死にかけないとルークの気持ちは変わらないのかなあ…。乖離のリスクが高まるから、出来れば避けたい所なんだけど…。



「それでも、俺は…!」

「我々に対して精神的に揺さぶりを掛けて、狼狽させる作戦ですか。ザオ遺跡で六神将に奇襲を仕掛ける、貴女らしい作戦ですね」

『褒め言葉として受け取っておきましょう。カーティス大佐』



雷電を纏った槍がきたいつの間に。ご丁寧に先程の譜術で発生してたFOFを利用してくる辺りが抜かりない。雷神旋風槍のせいでルークから強制的に距離を取らされたし。ジェイドは譜術にも近接戦闘にも特化した相手だ。流石軍人、流石死霊使い。大佐の階級は伊達じゃ無い。なんせ、皇帝陛下の懐刀だもんね。恐れ入ります。



「譜術に依存していては、接近戦で足許を掬われますよ」

『お心遣い痛み入りますが、どうぞ御心配無く。接近戦も心得てますから』



ジェイドと入れ替わりで、体制を立て直したルークが再び突っ込んできた。ジェイドの指摘通り、譜術だけではやはり接近戦に持ち込まれた時に少々痛い。そんな場合はどうするのか。…という事で、せっかくなので、私も久し振りにちょっと頑張ってみようかな。

上段構えから斬り降ろされたルークの太刀を手の甲でいなし、剣を滑らせる。身体を捻り、ルークの背後に回って、彼の背中を蹴り付けて前のめりに態勢を崩させた。そのまま彼の背を踏み台にして、接近してきていたガイの顔面を狙って続け様に蹴り上げる。が、寸前で顔を逸らされ、空中で身動きが取りにくい私を、今度はガイの剣が捉えようと下から斬り上げてきた。しかし、そうくるのは予想済みなので、BCロッドで太刀を受け止めて、その勢いを借りて更に高く空中へと飛び上がる。

そこを狙って後衛が譜術を仕掛けてくるのも、予想済みなので。速攻で第一音素と第二音素を左手で練り合わせてグラビティを発動し、重力を捻じ曲げて譜術を飲み込み、ブラックホールをルーク達に向けて落とした。味方識別?私の譜術が干渉した時点で、純粋な味方の譜術じゃなくなるから無効だよ。



「今のは…FOF変化技だわ!?FOFが無い状態で一体どうやって……」

「きゃあ!?」

「!ナタリアっ!!」



同時に、第五音素…炎を纏わせた投げナイフで矢を切り裂き、ナタリアの弓の弦を断つ事に成功した。お、これはラッキーだ。これでナタリアが弦を張替えるまでの時間稼ぎが出来た。実は投球とかダーツのコントロールって微妙なんだよね、私。譜術センスは良いのに不思議。

着地の前に空中で体を回転させて落下の勢いを加速させ、グラビティで怯んでいるガイとルークに更に駄目押しで第五音素の炎を纏わせた蹴りをお見舞いする。シンクの得意奥義、空破爆炎弾だ。もっとも、シンクの蹴りより力も威力も弱いから、あんまりやらないんだけど。あと体力的な問題で疲れるし。



「っ、今の技は…!?」

『導師の盾となり、矛となるのが守護役の務めですから。格闘の真似事程度なら齧ってます』



なんせ、カンタビレ教官から基礎体術の動きも叩き込まれ……ごほん、指導して貰ったからね。格闘技に関しては、シンクと一緒に勉強してたから。故に基礎の動きはシンクと同じ点も多いという。中には私がカンタビレ教官に教わった動きを、私からシンクに教えたのもある位だし。手合わせしながら、互いに互いの動き方を盗んだ物も含めての話。とはいえ、シンクとは体術のみで本気で手合わせした事がないので、譜術縛りをされたら絶対に勝てないだろうね。むしろ、基本性能もシンクの方が断然強いと思うし。やはり純粋な力技には私だと押し負けてしまうから、私は基本譜術をメインに使う訳だが。ちなみに、体術と譜術が組み合わさって初めて真価を発揮するのが、ダアト式譜術だったりする。まぁ、今回ダアト式譜術は使わないけどね。



「譜術師なのに体術使いって、どんだけハイスペックなんだよ…」

「やれやれ。これは骨が折れそうな相手ですねえ」

『その言葉、そのままカーティス大佐にお返ししますよ』



ジェイドも譜術と槍の両方使ってくるだろーが!とツッコミたくなったけど頑張って自重しました。どうせ、骨が折れそう(物理的に)とか思ってるんでしょ。まさしくその通りだがな!

まぁ、一番の要因はトリップ補正による最強設定からくるデタラメな強さ…かもしれないけど。あとはカンタビレ師団長の仕込み…ゲフン。訓練の成果、だよ。トリップ前の平凡な腐女子高生なままならとっくに死んでたね。

とはいえ、この人数でこうも固められちゃあ、流石に私も動きにくい。生死問わずで叩き潰すなら、簡単に蹴散らせる事が出来るんだけどなぁ。やっぱり加減が難しい。甘く見くびり過ぎたら、足許を掬われるし。やりにくいったらありゃしない。全力で闘技場で腕試しをしてた頃が懐かしい……。ある意味、ネビリムやソードダンサー戦より厄介かも。…仕方ない。出し惜しみして危なくなる前に、あの手を使うか。

対多人数戦では、まずは相手の陣形を崩すのが基本です。多数との接近戦を含めて、乱戦に持ち込まれた時はコレを使って切り抜けると便利です。…という事で、それでは遠慮なくぶっ放しましょう。



『蒼溟たる波涛よ、戦禍となりて、厄を飲み込め!』

「…っ!?気を付けてください!大きいのが来ますよっ!!」

「「「「!!」」」」



ジェイドが漸く音素の流れの異変に気付いた様だが、もう遅い。譜歌によるフォースフィールドを展開させる時間なんて与えない。戦闘開始時から今まで密かにBCロッドに圧縮し貯め続けてきた第四音素を一気に開放し、術式に乗せて広範囲に展開・四散させる。第四音素の奔流が爆発的に広がる最中。アニスとアリエッタ以外、ルーク達全員が巨大な譜陣の範囲内にいる事を確認し、サクはそれを発動させた。



『タイダルウェイブ!!』



術者を中心に、光り逆巻く高密度の第四音素が一気に大量の水へと変化し、擬似的な大津波と化した。譜陣範囲内の対象を大津波が漏れなく全員絡め捕り、濁流が飲み込む。渦中はスプラッシュの比ではない水圧だろう。発生した巨大な渦潮が、全てを飲み込む、テイルズシリーズの水属性最強奥義だ。

連続で使用された際のその様は通称、洗濯機と有名な奥義を華麗に決めた所、ルーク達はものの見事に全員ダウンされています。やっぱり威力が凄いなタイダルウェイブ。闘技場では大変お世話になりました。

さて、ここからが本番だ。



『レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ…』

「…っ!?その、調…は…!!?」

『深淵に眠りし聖なる旋律よ、契約者の名において命ず。響け、ローレライ!』



先の譜術で皆がダウンしている今のうちに、サクは譜歌を詠った。七番目の旋律を耳にしたティアがまさか…と驚愕する最中、詠唱を完了したサクは金色の光の翼を背に纏い、ローレライの加護を発動させた。今は髭がローレライを抑えてるからね。大譜歌を詠ってもローレライを召喚するのは難しいので、今回は加護だけにしておきます。幸いこの場には大量の第七音素があるし。この為にこの地を選んだと言っても、過言ではない。セコイ?地の利をいかした戦略って言って欲しい。



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