覚悟の決闘(5/19)


「う、うぅ……。許さないんだからぁ!」

「許してもらおうなんて思ってない。負けるつもりもないけどね!」

「いや、お前がアニスを責めるなら、俺達がアニスの味方になる」

「ぬけぬけと……!イオン様を守るのが役目だったくせに!!」



ズキリと、胸が痛む。アリエッタの正論にも、自分をかばってくれるルークの言葉にも。



「イオン様もアリエッタのこと分かってくれた。ヴァン総長に協力してた!イオン様が変わっちゃったのは、アリエッタの代わりにアニスが導師守護役になったから!」

「――それは違う!お前は師匠に騙されてるんだ!本当のイオンはとっくに……」

「ルーク!黙ってて!」

「なのにアニスはイオン様を裏切った!」

「あんただって、総長を裏切ったくせに!!」



カッとなってアリエッタに叫び返すアニス。繰り出されたトクナガの拳を避け、再び互いに距離を取ると、アリエッタはまっすぐアニスを見詰めた。



「総長のやり方は間違ってるから、イオン様やサク様、ルーク達は止めたんでしょ?アリエッタも、総長の計画は、間違ってると思う。レプリカ計画じゃ、誰も救われないって思った」



きゅ、と拳を握り締め、眉根を寄せた悲しそうな表情で、アリエッタは首を振る。



「総長は恩人だから。総長の考え方は間違ってるから、止めるの。今度は、アリエッタが総長を助けるの!!アニスなんかと、アリエッタを一緒にしないでっ!!!」



第一音素を人形を媒介に込めながら、再びライガと共に突っ込んで来る。彼女が得意とする第一音素譜術を仕掛けて来る気の様だ。



「口先だけで、本当はイオン様を守り抜く覚悟もない癖に!アニスなんて、死んじゃえっ!!」



ブラッディハウリングが炸裂する中、アニスも流影打で応戦を試みる。音素が込められた拳と、譜術が激しくぶつかり合う。

…アリエッタやユリアの言葉は、仕方がないと思ってた。守護役の癖にイオン様を守れていないばかりか、スパイが本業で。アタシは所詮、モースの駒で、裏切者の守護役だったから。だから、イオン様にとっても……彼女達が、ユリアが一番の導師守護役だと思ってた。イオン様はユリアの事をとても信頼してて、実際にユリアもイオン様の期待に応える働きをしてて。影で裏切ってるアタシなんかとは、大違いで。彼女と合流した時に見せるイオン様の笑顔も、本当に嬉しそうだったから。イオン様にとって彼女が一番の導師守護役だと思ってた。

でも、実際は違ってた。イオン様が選んでくれたのは、アタシだった。アタシは、その期待に応えたい。もう二度と、裏切りたくない。



「アタシは死なない!イオン様と約束したの。これからもイオン様の守護役であり続ける。二度と裏切らない。この命に掛けて、ちゃんと生きて償うんだ!イオン様が目指す人を救う教団を、一緒に作っていく為に!」

「それが、アニスの答え…ですか! 」

「そうだよ!これからどうしたらいいのか、考えた答え。口先だけじゃないって、今から証明してあげるよ!!」

「…上等、ですっ」



トクナガの鉤爪と、ライガのサンダーが正面からぶつかり合った。衝撃に爆風が辺りに巻き起きる。



「アニス…っ!!」

「!ルークっ、よそ見するな!!」



咄嗟に駆け出そうとしたルークの足許に、サンダーブレードが突き刺さった。…ガイの警告が無ければ、危うく直撃していたかもしれない。サンダーブレードを放った術者と思われる人物の方を仰ぎ見れば、BCロッドをこちらに向けたユリアと目が合った。



「…頼む!ユリア!考え直してくれ!俺はお前達と決闘なんてしたくないっ!アニスを信じてくれ!」

『…タトリン奏長を信じた結果、イオン様の御命が危険に晒されたのです。タトリン奏長を信じた事は、間違いでした。彼女が大詠師派からの密偵である事の調べはついてました。スパイだと知りながら、今まで泳がせておいた私の判断ミスです。やはり、早急に排除しておくべきでした』



今まで見逃してきた事が、仇となった結果ですから。淡々としたその冷たい物言いに、ルークは彼女も軍人なのだという事を改めて思い知らされる。軍に属する者は、時には非情な選択を迫られる時もあると、以前ティアやジェイドも言っていた。ユリアにとって、今がまさにその時なのかもしれない。でも…と、ルークは拳を強く握り締める。



「確かに、アニスは一度裏切った。けど、アニスはもう二度と裏切らないって、イオンと約束したんだ!」

『信じられませんね。弱みを握られれば、彼女はまた裏切るかもしれません』

「人は変われる。俺が、変われたみたいに。ユリアも、俺は変わったって言ってくれたじゃないか!もう一度、アニスを信じてやってくれないか!?」

『…申し訳ありません、ルーク様。私もアリエッタも、同じ誤ちを踏む気はありません』



ルークの必死の説得にも、ユリアは首を横に振るばかりだ。ユリアの意志は、アリエッタ同様、確固たるものだった。



「あの場にいなかった君に、アニスを責める資格があるのか?」

「そうですわ!貴女も同じ導師守護役なら、導師イオンを傍でお護りしなくてはいけなかったのではなくて?」



ルークに続いて、ガイとナタリアの幼馴染コンビも前に出てきた。女性に対して珍しく厳しめな態度を取っているガイを意外に思いつつも、ルークは縋る様な思いでユリアを見詰める。今からでも遅くはない。この決闘を取りやめては貰えないだろうか…と。



「アニスを責めるなら、あの時イオンを傍で守ってやれなかったお前達の失態でもあるんじゃないのか?」

『その通りです。だからこそ、事の後始末にこの様な決闘を申し込んだのではありませんか』



事の後始末。ガイの言葉に対し、そんな返答を聞いたルーク達の表情が強張る。その口振りでは、まるで…



「本気でアニスを殺す気かよ…っ!」



激情を露わにする自分達とは対照的に、ユリアは無表情だった。最初から、彼女達はそれが目的だったのだ。最初から、彼女達を説得して止める事など無理だったのだと。今更ながらに、ルークは思い知る。



「させませんわ!悲しみの因縁はここで断ち切ります!」

『…貴女がそれを仰いますか、ナタリア姫…』



ユリアの含みのある物言いに、ルークは更に戦慄する。…まさか、ナタリアとラルゴの関係までも知っているのだろうか。ナタリア本人以外の者達もルークと同じ事を感じたらしく、各々表情を強張らせていた。

その時、強い地響きと同時に大地が大きく揺れた。ハッとしてアニス達の方を見やると、アニスがトクナガごと地面に叩き付けられているのが視界に入った。対面するライガは空中で身を翻し、再びアニスへと突進しようとしている。アニス!とティアが叫び、彼女の許に駆け寄ろうと走り出す。ナタリアも弓矢を構えて照準をアリエッタに合わせ、アニスを援護しようとした。が…



『…アリエッタの邪魔はさせませんよ』



突然目の前に現れた炎の壁によりティアは行く手を阻まれ、ナタリアが放った矢も炎の壁に阻まれ、焼き落とされた。譜術の牽制を掛けられた事により、二人は動きを止めざるを得なかった。



「今の譜術…まさか、無詠唱で…!?」

「おいおい…冗談キツイぜ…」



ティアやガイも、思わず表情を引きつらせる。無詠唱であの威力、発動時間も…譜陣の展開も、かなり早かった。今のが牽制ではなく、直接自分に当てられていたら…。避ける事は出来なかった可能性が高い。そしてアニスの方はというと、ライガに突進される前にギリギリ飛び退き、辛くも無事だった。



『我々の標的はあくまでタトリン奏長ですが、義理立てされるのであれば、致し方ありません』

「ユリア奏士……本気なんですね」

『私もアリエッタも、冗談で決闘を申し込んだりはしませんよ?グランツ響長』

「貴女御一人で我々を足止めする気ですか?」

「私達も随分と見縊られたものですわね」

『まさか。見縊ってなどおりませんよ。なので、私も全力でお相手させて頂きます。後程相手にアニスが控えておりますので』



仲間達の無事を確認したジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げながら、ユリアを見据える。再び弓矢を構えたナタリアは、今度は照準をユリアの方に合わせた。ガイやティアも、各々武器を構え直して既に戦闘態勢に入っている。

…やっぱり、戦いは避けられないのか。悔しさに歯噛みしながらも、ついにルークも剣を抜いた。

ユリアとはアクゼリュスに向かう短い道中しか共に戦っていない。キムラスカで市民を扇動したり、ロニール雪山で六神将を抑えて貰ったりと、六神将並の…否、下手をすれば彼等以上の実力者である可能性は高い。敵に回ると恐ろしいが、味方だと心強いと言っていたジェイドの言葉が記憶に蘇る。あの頃は、まさかユリア達と戦う事になる日が来るなんて……思いもしなかった。



- 375 -
*前 | | 次#

(5/19)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -