深淵の物語(3/8)


「やっぱり、あの時サクがイオンに使ってたその剣が…」

『アッシュが受け取ったローレライの鍵…の片方。剣の部分だね。あとは宝珠が揃えばローレライの鍵が完成するんだけど、まだ見つかって無いんだ』



アッシュが装備した剣を見詰めて、ルークが呟いた。この辺は伝承道りだし、省いても問題ないかな。



「どうしてサク達はローレライの鍵を捜しているんだ?プラネットストームの活性化を抑える為?」

『確かに、結果的には活性化の抑制に繋がるけど、一番の目的はローレライの解放の為かな。今はローレライから直接力を借りれないから、その代わりにちょっと鍵を借りたのさ』

「そうだ!火口でも言ってたけど、ローレライの解放ってどういう事だ?それに、ローレライの力を借りれないって…?」

『…アッシュ、パス』

「…てめぇ、面倒臭そうな話になった途端に説明を押し付ける気…」

「アッシュ、教えて。ローレライはどこに閉じ込められていますの?それにヴァンは生きているのですか?」

「お前ならローレライと連絡が取れるんだろ? ローレライがどこにいるのか知ってるんだろ?」

「……いや、外殻大地降下の日からローレライの声は聞こえない。呼びかけにも応じない」

「被験者のお前でも駄目なのか……」



嘆息するルークに、アッシュの片眉がピクリと反応する。テメェに言ったんじゃねぇよ、今のはナタリアに説明しただけだ、とでも言いたげだ。ルークはルークで、被験者のアッシュで駄目なら、劣化品のレプリカの自分に声が届く筈もない…とか卑屈な事を考えてそうだ。そんな思いが顔に出てるせいで、アッシュも余計にイラッと来たらしい。…何なんだこの赤毛ズは。分かりやす過ぎるだろ。



「それならお前が知ってることを話してくれないか?」

「アッシュ、お願いですわ!」



お前も知ってるだろうが…。ガイに続いて、ナタリアからの懇願で畳み掛けられたアッシュからの恨めし気な視線はスルーの方向で。

いやね?ルーク達に話をするのは非常に楽しいんだけども、私だけが説明役に回されるのは割に合わないでしょ。ローレライの鍵捜しをしているのはあくまでアッシュなのだから、彼も情報交換の席には参加すべきだろう。ていうか、アッシュもルーク達と協力し合おうよぼっち旅は寂しいじゃないか。って私の本音を言えば、誰の尻拭いをさせられてると思ってんだ?て具合に額に青筋を立てて来そうなので自重します。尻拭いも何も、ルークもちゃんと宝珠を受け取ってるよー?とは双方教えてあげない。リグレット達に狙われるのはこっちだけで良い。

因みに、先程ルークに肩を掴まれてた時に宝珠の有無は確認しときました。シナリオ通り、コンタミの要領で取り込んでる様です。



「…元々ローレライは、地核からの解放を望んでいた様だ。俺達やルークに接触したのも、地核に留まる事でこの星に悪影響が出ると考えた為らしい」

「確かに、以前ティアの体に乗り移ったローレライはそんなことを言っていましたね」



ジェイドが記憶を手繰り、それなら…とナタリアが言葉を続けた。



「ローレライが閉じ込められている場所は地核なのですか?」

「いや。今はいない。ローレライはお前たちがヴァンを倒した後、地核から消えた」

「ならどこに……」



首を捻るルークを、アッシュは横目で睨み付けながら続けた。…お願いだから力を入れ過ぎて手に持ってるカップは割らないでね。ちょっと気に入ってるヤツだから。



「……奴は俺との最後の接触で言っていた。ヴァンの中に封じられた、とな」

「兄さんは生きているのね!」

「地殻に落ちて無事だった生き証人達もいる位ですし、本格的に有り得ない話では無くなってきましたね」



チラリ、と意味深にこっちを見ないで下さいジェイドさん。気持ちは分かりますけれども…



「けれどあの時のヴァン謡将は、酷い怪我を負っていましたわ。あの状態で一体どうやって……」

「そこまで俺には分からない。とにかくヴァンはローレライを体内に取り込んだんだ。第七音素には癒しの力がある。それがヴァンにとっては幸いしたんじゃないか?」



黙って聞いていたガイが、口を開く。



「もしそうなら、ローレライの解放ってのはヴァンからの解放ってことか?」

「そうだ」



ガイの推理にアッシュは頷くと、紅茶を口に運んで一息ついていた。お疲れ様です。ここまでアッシュの説明を聞いて、一同はようやく事態を理解した様だった。

つまり、地殻に閉じ込められてたローレライが、今度はヴァンの中に閉じ込められたって事だ。栄光を掴む髭が私を捕えようと…的なメッセージは、ルーク経由で既に聞いていたであろうに。ジェイド達の反応から察するに、やはり半信半疑だった様子。まずローレライからの訴えって時点で色々胡散臭いし怪しいからね。例え状況証拠が揃ってきてても、ローレライからの電波ってだけで信憑性は低くなるし信じ難い気持ちも分かるよ。…あれ?髭を掴む栄光だったっけ……何でもいいか。むしろ長いから髭だけでいいよ。きっと古代イスパニア語でヴァンは髭という意味に違いない。古代イスパ二顎なだけに。ダウト!



「ローレライはオールドラントの重力を離れ、音譜帯の七番目の層になることを望んでいる。その為に俺はローレライの宝珠を探している。この剣にはめる宝珠がなければ、剣は鍵としては機能しないからな」



紅茶の入ったカップをテーブルに戻して、アッシュはローレライの剣を再度取り出して見せ、幅広の剣の柄を指した。本来なら、宝珠が嵌め込まれる部分が、丸く空いている。



「そうか……。ローレライの鍵で解放してくれって言ってたもんな」

「ユリアの伝説通り、鍵にローレライそのものを宿して、成層圏の遥か上空にある音譜帯へ導くのね」



ティアが思案気に呟く。彼女も心中複雑だろう。兄が生きていると知っても、素直に喜べない立場なのだ。



「でも、宝珠はどこにあるんだ……」

「お前が!」



ルークの他人事の様な物言いに、アッシュは眉を釣り上げてルークの胸倉に掴み掛かった。あ〜…ついにアッシュがキレてしまったか。アッシュの気持ちもちょっと分かるだけに、何とも言えない。



「お前がローレライから鍵を受け取っていれば、こんなことにはなっていなかったんだ!」

「俺が……?」

『ローレライの声が聞こえた時に、アッシュとルークに鍵を送るって言ってたんだよ。だから、ルークも受け取ってる筈なんだけど…』



サクからも困った様に苦笑され、ルークは戸惑う 。思い当たる節はある様で、ルークは若干青褪めている。うぅ…胸が痛む…。



「恐らくセフィロトを通じてどこかに投げ出された筈だ。六神将の奴らも鍵を探している。もし奴らに奪われたら、ローレライを解放できなくなる」



アッシュの言葉に、ナタリアが恐ろしそうに続ける。



「解放できないとプラネットストームが第七音素を生む為、更に激しくなって……」

「この世界は滅びる」

「……そういうことだ」



ティアの結論を受け取ったアッシュが、吐き捨てる様に言った。

外殻大地はディバイディングラインの浮力と星の引力の間に静止している。上下から均等な力で引っ張ると、どちらにも動かない理屈と同じだ。先の外郭大地の降下により、ディバイディングラインは下に圧力を生み、それが膜になって、障気を地核に押し戻している。セフィロトを閉じた現在、こうして地核に障気を閉じ込めていた訳だが……最近地核の振動の活性化により再び障気が発生し、障気の総量が増加した事により地核に障気を閉じ込め切れなくなり、溢れ出た障気が外郭大地に再び噴き出し始めているのだ。世界中に障気が発生してきている時点で、既にその兆候は見られている。

地核振動活性化の原因は、ヴァンの中に閉じ込められたローレライだ。ローレライが閉じ込められている以上、世界中の第七音素の総量は減少する。その分を取り戻そうとプラネットストームは活性化し、第七音素を多量に作り出そうとする。こうなると地核の揺れが激しくなり、タルタロスでは揺れを打ち消す事が出来なくなり、大地は再び液状化する。耐久値の限界によりセフィロトツリーを停止させている今、このままいけば外郭大地は障気の泥の海に沈む事になるだろう。

シン…と、気まずい沈黙が落ちる。全く、お前は何処の囚われのヒロインだとローレライに文句を言いたくなる。そして魔王役の髭の趣味も悪い。救いがナイネ。そんな危機感の薄いサクの戯言はさておき。これでようやくルーク達の方も状況を飲み込めた所で、アッシュは苛立出し気にルークを突き飛ばす様にして放した。



「…俺はもう行く。後は導師サクにでも話を聞くんだな」

「アッシュ、まてよ!宝珠は俺達と一緒に探そう!」

「レプリカと馴れ合うつもりはない」

「レプリカだから、お前の助けが必要なんじゃないか!」



ルークが怒鳴ると、ドアノブに手を賭けようとしていたアッシュが勢いよく振り返り、怒りを爆発させた。うわぁ、激怒プンプンアッシュだ…



「いい加減にしろ!お前がそんな台詞を言える立場だと思ってるのか!」

「やめなさい!二人とも喧嘩している場合じゃないでしょう?」



ぐっと睨み合う二人に、ティアが割って入る。アッシュは小さく舌打ちしながらもぐっと押し黙り、再び此方に背を向けた。



「……俺達は残りのセフィロトを回ってみる。お前が受け取り損ねた宝珠の場所を見つけるには、それしかないからな。お前達はお前達で勝手にしろ。何か分かったら連絡ぐらいはしてやる」



そう低い声で告げると、今度こそアッシュは部屋から出て行ってしまった。あの短気なアッシュにしては、よく我慢した方だね……って、



『ちょ、言うだけ言って立ち去るとか!なんて自分勝手なんだ!』

「アッシュも、サクにだけは言われたくないと思う……その台詞」



シンクのツッコミには、実は満場一致だったとか。

…無意識かもしれないが、アッシュは俺たちって言ってた。私達の事を仲間って認識してくれてる事の現れだよね?そう思ったら、自然と頬がにやけそうになってしまった。



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