深淵の物語(2/8)

そういえば、ルーク達を私の部屋に通したのは、何気に初めてだ。イオンの執務室同様、さほど広い訳じゃないから、此れだけの人数が集まるとやや狭い気もする。紅茶を配りながら皆にソファーや執務机の椅子に腰掛けるよう勧めて、取り敢えず自分も空いてる場所に座る。一瞬、テーブルと椅子を即席でフォミクろうかと思ったけど微妙な空気になりそうだったから自重しました。因みにシンクは私の隣に立って、腕を組みながら壁に背を預けています。



「さて、では順を追って御説明して頂けますか?導師サク」

『うぅ…少し位ひと休みさせてくれても良いじゃないですか…』



優雅に紅茶を嗜んでいるジェイドに促され、サクは紅茶を一口飲んでからカップをソーサーへと戻した。ルーク達からも話を聞きたそうな視線が集まってきていたので、いい加減勿体振らずに本題へ入る事にした。まずはルーク達に今日までの自分達の足取りを簡単に話した。地殻に飛び込んだ後、シンクと和解した事。ローレライの力を借りて、擬似超振動で脱出した事。その後しばらくは療養してた事。…勿論、守護役ユリアとして彼等のサポートをした事は伏せて、だ。



「外郭大地を降下させる時に、アッシュの他にサクの力を感じたのも、実際にサクが協力してくれてたからなんだな…」

『言わなかったっけ?私も後から追い付くから〜…って。まぁ、結局アッシュにしか追い付けなくて、ルーク達とは合流出来なかったんだけどさ』

「あの時言った事は本気だったのかよ…」

『そりゃあね。とは言え、本当に戻れるかは賭けだったんだけど。それ以前に、あの時はどう脱出するかなんて、全く考えてすらいなかったし』

「何て言うか、君らしいな…」



脱力してうな垂れるルークの肩に、ガイがドンマイと手を乗せた。苦笑を浮かべるガイ様もイケメンです。



「でも、良かった…っ。二人が生きてて」

「…何で僕まで含まれてるんだよ」



ついさっき迄は疑ってた癖に。呟くシンクに、ルークは苦笑している。



「敵とは言え、やっぱり誰かが死ぬのは嫌だからさ」

「偽善だね。敵に情けを掛けるなんて、イオン並に甘ちゃんじゃないか」

『素直に心配してくれて有り難う位言ってあげなよ』

「頭可笑しいんじゃない?あんたら」



頭の中がお花畑とでも言いたいのか。シンクは。私の頭の中には確かにある意味お花畑な部分はあるよ。薔薇の咲いたお花畑がね!



「導師イオンは、お二人が生きている事を知っていらしたのね」

『うん。イオンに第二導師の生存はそのまま伏せて貰うよう頼んで、今迄アッシュ達と一緒に動いてたし』

「!アッシュと…?という事は、導師サクも共にローレライの鍵を捜していらしたのですか?」

『基本的にはそうだよ。他にも怪しい研究施設を潰して回ったり観光したりとかもしてたけど』

「えーっと、これは何処からツッコめば良いんだ?」

「話せば無駄に長くなるから止めておいたら?アンタ達が暇なら別に良いけど」



女性陣二人からの質問に対してツッコミ所満載なサクの返答に、ルークがツッコミあぐねるも、シンクの何処か遠い目がそれ以上深くは語らせるなと言っていた。何となくシンクの心労を察したルークは、彼に何と声を掛けるべきか、えーっと…と、やや気まずそうに頬を掻きながら言葉を濁した所で、ノックの音と「入るぞ」という声と同時に廊下側の扉が開いた。ノックした意味、あるのか?



「おい、導師サク。いい加減ローレライの鍵を返しやがれ」

『お疲れアッシュ。ソウルクラッシュじゃ不満だった?』

「いや、悪くわないが…って、そうじゃねぇだろ!!」



タイミング良くもアッシュが現れた。ルーク達が驚いてるけど、彼にここに来るよう呼んだのは何を隠そう、私だ。互いに今回の事件の報告は既に便利連絡網で済んでいるのだが、まぁ他にも用があるから一度私の部屋に来て欲しいと頼んでおいたのさ。本当、便利だよねー便利連絡網。



「アッシュ…!良かった。無事だったんだな」

「ハッ、レプリカ如きに心配される筋合いはねぇよ」

『はい。アッシュの分の紅茶ね。せっかくだからローレライに関する説明を皆にしてあげてよ。私は疲れちゃったよ』

「さっきまでイキイキと話してた癖に…」



サクの傍の壁に立て掛けてあったローレライの剣を手に取り、ソウルクラッシュの装備と交換するアッシュ。その間にサクは予め用意して伏せてあったカップを手に取り、紅茶を注いでアッシュに渡した。ボソリとシンクが何か呟いてたけど笑顔で相殺。紅茶を受け取ったアッシュの眉間に、皺が寄った。何とも嫌そうな顔である。その眉間の皺を突きたい。



「断る。何で俺が…」

「お願いしますわ!アッシュ」

「!くっ……」

「馬鹿だ。馬鹿がいる」

『流石、脳内六割がナタリアな男…』



今にも紅茶をテーブルに戻して出て行こうとしていたアッシュだったが、ナタリアのこの一言で踏み止まりやがった。シンクが飽きれてるのも無理は無い。流石、安定のアシュナタですね。



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