勿忘雪(1/13)

ルーク達が髭討伐に向かった後、サク達は再びロニール雪山へと赴いていた。歩きにくい雪道を進みながら、サクが僅かにブルッと身を震わせた事に、シンクが気付く。



『………』

「…え、何?寒いの?(震えてるし…)」

「やはり、サク様も不安なのでしょうか」

「…違うね。アレは武者震いだ。二人とも、サクの顔をよく見てみなよ。楽しそうに笑ってるから」

『ククク、久し振りの強敵に血がたぎるぜ…!』

「どうしょうもない程に超絶笑顔だったよ!」

「心配御無用、でしたか」

「むしろ心配するだけ時間の無駄でしょ」

『……シンクとフレイルは兎も角。クロノは少し…頭を冷やそうか』



コンタミで取り出したBCロッドを片手に笑顔のサクとクロノの間にのみブリザードが吹き荒れる一方、今度は彼ら以外の仲間達が急激に下がった気温にブルリと身震いしたとか。

さて、リグレット達を捕え、無事にルーク達を見送った今。何故サク達はまたしてもこの雪山……ロニール雪山に来ているのか。事の発端は、サクのこの一言から始まった。



『皆で雪山の魔女を討伐しに行きましょう♪』

「ちょっ…『これは問答無用で導師勅命です!』



シンクが抗議を唱える事すら叶わず、語尾に星が付く勢いで茶目っ気たっぷりに、こうして今回の作戦…もとい命令は下ったのであった。

ルーク達がアブソーブゲートへ向かった以上、此方もゆっくりしていられない。シナリオ通りに事が運んだ場合、ルーク達とヴァンとの間で決着がついた後、地殻に落ちたヴァンによりローレライが封じられてしまうからだ。そうなると必然的に、私が得られるチート能力の一つ、ローレライの加護が容易に得られなくなってしまう。流石に今回ばかりは私も万全の状態で全力で挑みたいからね。ある意味ヴァンと対峙する時以上に緊張しているかもしれない。

さらにもう一つ気掛かりなのが、外郭大地降下作戦…ルークのパッセージリングの操作だ。ルークを信用していない訳じゃないよ?ただ、一人でパッセージリングを操作するのはきっと大変だからね。やはりアッシュの協力は必要になると思うのだ。そうなると、面倒な事にこの後の任務にはある程度の時間制限まで生じてくるという。

時間が限られている上に、先の理由から雪山の魔女討伐を先伸ばしにする訳にもいかないので、若干急いでいたりする。…なんでこんなに計画がギリギリなんだ。誰だ考えた奴。そして髭並に無謀なこの計画にok出した奴。勿論全部私だ!

そして今回の討伐メンバーは、前回リグレットとラルゴ達を袋叩…返り討ちにしたのと同じ面子に来て貰ってます。相手が相手なので、昨日のアレは軽過ぎるウォーミングアップに過ぎないと言えるかもしれない。

珍しく私が強敵だと楽し気に話す相手に、興味が湧いたらしい。カンタビレがニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。



「雪山の魔女とやらは、そんなに強いのかい?」

『当時、組まれた討伐部隊のマルクト軍の一個中隊を壊滅させたって話ですから、相当かと』

「ちょ、そんなに!?」

「むしろ化け物レベルですね」



そんな情報聞いて無いと言いたげなシンクと、表情を引き攣らせるフレイル。まぁこれが比較的普通の反応だと思うよ?しかし、そこはレネス・カンタビレ。



「フフフ…お前がこのメンバーを揃えるだけでなく、私迄呼び出したんだ。やはりそう来なくちゃな」

「あーぁ、カンタビレにスイッチが入っちゃった」



この時点でカンタビレの目は既に獲物を狩るソレに変わっており、気付いたクロノが面倒そうにボヤいた。ソードダンサー以来であろう、久々の強敵と言える相手に血が滾るらしい。流石カンタビレ教官!あなたも好きですね。そしてアッシュ、地味に引くな。お前の師匠のヴァンも種類は違えどアレはアレで大概だろう。

こうしてカンタビレ師団長に直接任務を頼むのは、シェリダンの件も合わせると三回目だ。

カンタビレ師団長や第六師団は今までは本部にいなかった事を逆手に取り、結構自由に個人的な任務を頼んだりしていたのだけれど、今や第六師団が神託の盾騎士団の主力部隊となった為に、そうオイソレと頼み事も出来ないのが現状だ。今回カンタビレ師団長に協力して貰っているのも、実はかなりの無理を通しての事だったりする。

この様に、自分の地位を使えば全く不可能な訳では無いが、色々不都合や問題が生じて後々も面倒なのでなるべく無理は言わない。せっかく表舞台に立てる機会を得た彼等の努力を、自分の我が儘一つで潰す訳にはいかない。もともとそういう約束……というかサク自身の思惑でもあった。

相変わらずの少数メンバーではあるが、実力的には最高クラスの精鋭しかいない頼もし過ぎるパーティーメンバーなので、問題は特にない。ルーク達同様、此方も少数精鋭で動いている方が都合も良いし。

そんな雪山の魔女討伐パーティーメンバーに今回追加されたのが、実は一人だけ何も知らないこの人物。



「まさか、導師イオン被験者が生きていたとは思いませんでしたよ。これも"また"貴女の謀なのですか?」

『謀、ねぇ……否定はしないけど、個人的な意見としては、私はクロノとの約束を守っただけだよ、ディスト』



ケテルブルクにて新たに合流した、六神将が一人…死神のディストだ。あの報告書…もとい手紙の贈り主である。

報告書に書いてあった様に、彼には結構前からこの日の為にずっと下準備をして貰っていた。雪山の魔女を復活させる為に、魔女の封印場所の特定や不足音素のデータとかを調べたりね。今回、魔女の復活を触媒無しで行うので、その為の下調べ……って所だ。何気にジェイドからの某拷問を回避させてあげたのだから、私に感謝して欲しいね。



『…一つ聞きたいんだけど、ディストは今でもクロノやシンク達を見て、レプリカは被験者と同じだと思う?』

「姿形は別として、彼等には能力値の違いや個体差があるので、理論的には同じとは言えませんね。けれど、レプリカで被験者を造り出す事は、もっと研究を進めていけば、可能な筈なんです!」



それはつまり、クロノやシンクは同じじゃないと認識してるという事で。でも、研究を進めて行けば、成功すれば、蘇えらせる事も出来ると。根拠は、ジェイドが出来ると言ったから……といった所だろう。



『レプリカで死者を蘇らせる事が出来る……かつてのジェイドの持論は間違っていないって、ディストは考えてるんだね』

「そうです!そしてこの理論が正しい事を証明する為にも、私は日々研究を続けているのですから」



微妙にシンクが嫌そうな…嫌悪感剥き出しの殺気をディストに向けてるけど気付かないフリをしておく。



「それにしても……導師サク、貴女は何故私の目的に協力してくれるのですか?」

『何故も何も、私達は友達でショ?』

「……!!!」



ディストが望むは彼等の恩師の蘇生。根底にある想いは、あの頃に戻りたかったから。またジェイドと研究がしたかったから。フォミクリーの研究してる間は、技術者であるディストもジェイドに重宝さ…ゲフンゲフン、頼りにされてたのだろう。憧れのジェイドと対等になれて、同じ目的のために共に研究をして……本当に、本当に楽しかったのだろう。

つまる所、ディストは寂しかったのだ。



『ディストが納得するまで付き合うし、友達との約束は守るよ』

「サク…っ!!」



流石私が認めたジェイドに次ぐ親愛なる友ですね話が分かる云々〜と始まった演説を軽く聞き流しながら、サクは密かにほくそ笑む。嘘は言ってない。…本当の事も言ってはいないけどね。そんなサクの含みのある笑みを見てしまったシンクは、また良からぬ事(しかも総じて面倒な)を企んでるな…と、溜息を溢すのであった。



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