守られた約束(7/12)

イオンから詔勅を受け取り、教団から出た後……サクとアッシュは第四石碑がある丘へと向かった。そこで丘の外れに止まっていたアルビオールを発見し、機体の傍で見張りをしていたフレイルにサクが手を振ると、彼も此方が誰か気付き、僅かに警戒を解いてくれた。…どうやら後ろにいるアッシュを警戒している様子。まぁ、アッシュも六神将の一人だから仕方ないか。



「サク様、ご無事で何よりです」

『有り難う。フレイル達の方は大丈夫だった?』

「はい。問題はありません」



再び合流を果たしたフレイルの話によると、一度ディストと神託の盾兵達がアルビオールを捜しにこの辺りにも来たらしいが、見付かる事なく上手くやり過ごしてくれたらしい。



「サク、ソイツは…」

『あ、そういえばちゃんと紹介してなかったね。彼はフレイル。私の協力者だよ』

「御紹介に預かりました、第六師団副師団長、フレイル・シーフォ謡手であります」

「第六師団……カンタビレの部隊か」

「はい」



僅かに驚いているアッシュに、フレイルが生真面目に敬礼を取りながら肯定した。嗚呼、フレイルよりアッシュの方が階級が上だからか。

…それでも、アッシュが私に対して無礼な言葉使いなのを見た時には、若干口許が引き攣ってたけど。アッシュが六神将である事を警戒している以外に、微妙にオアシスで会った時の事も根に持ってるのかもしれない。この感じだと。



『そんなに畏まらなくて良いよ。相手はアッシュだし』

「どういう意味だオイ」



額に青筋を浮かべるアッシュを軽くスルーして、サクはフレイルにアッシュも協力してくれる事を伝えた。少し意外そうな顔をしたフレイルだったが、特に何も言わずに了承してくれた。…対応が大人だ。

アルビオールに乗り込むと、操縦席にいたノエルがお帰りなさい、と私達を笑顔で出迎えてくれた。ノエルの笑顔に癒された所で、彼女達にも今回ルーク達がモースに捕まってしまった事を話した。フレイルの方は粗方予測していたのか、特に驚いた様子もなかったが、逆にノエルの方は話を聞くなり、不安気な表情を浮かべた。



「ルークさん達は無事でしょうか…」

『今はまだ大丈夫だよ。早速で悪いんだけど、此れからバチカルまで頼める?』

「勿論です」



笑顔で快く引き受けてくれたノエル。フレイルが寝ずの番をしている間に、ゆっくり休ませて貰ったから大丈夫なんだそうな。後で今度はフレイルにも少し休んで貰おう。



「…お前達はコイツが導師守護役の格好をしてても驚かないんだな」

「まぁ、私は以前から存じ上げておりましたから…」

「??」



フレイルがアッシュの言葉に苦笑を溢す傍ら、ノエルが疑問符を浮かべて首を傾げた。そういえば、ノエルは導師守護役ユリアの存在を知らないんだっけ、という事を思い出したサクが彼女に簡単に事情を説明した。



『…あと、ルーク達にはこの事は秘密にしてね?二人が同一人物だって事をまだ知らないから…』

「?分かりました」

「何だ。アイツらもまだ知らなかったのか」

『うん。まぁ、ね…』



微妙な笑みを浮かべたまま何故か言葉を濁すサクに、アッシュは内心首を傾げた。別にアイツラなら口を割らないだろうに。むしろ、コイツは俺よりアイツラを信用してるかと思っていたが……そうでもないのか?



「意外だな。お前の事だから、とっくに話しているのかと思ったが…」

『色々と事情があるんだよ』



ほら、何気にアッシュの方が付き合い長いしさ、とか適当な理由をサクは言う。そういう問題なのだろうか。コイツの中の基準が分からん。

悪い気は、しないが…

アッシュとフレイルも内緒だよ?と念を押すサクを見ながら、アッシュはそれ以上理由を考えるのは止めた。はなから、コイツの考えが読めるとは思ってはいない。

剣を交える時もそうだ。癖は見抜ける様になったが……なかなか次の動き迄は読めねぇ。予測出来たとしても、対応仕切れない事がしばしばある位だ。



「……お前の実力なら、ヴァンの奴も倒せるんじゃないのか?」



ふと、そんな事を思ったアッシュが何気なく呟くと、サクはきょとんと目を丸くした。何の脈絡の無い話題を振られ、少し驚いたらしい。



『う〜ん…それは多分、無理だね。間違いなく迷いが出て、返り討ちにされるのがオチだろうし』



ならば、迷いが出なければ、ヴァンにも勝てるのだろうか。否、それ以前に、コイツは一体何に迷うというのだ。俺の知る限りでは、そこまでヴァンと親しそうな様子でも無かった筈だが…。

ノエルが操縦席に戻り、アルビオールがバチカルに向かって発進しても、アッシュの中でその答えは出ない。そうこう考え事をしている内に、アッシュの思考がズレ始める。

いつも悩みとは無縁そうで、自由奔放な奴という印象が強い奴だと思っていたが……そんなコイツにいつも振り回されて、シンクの奴が度々愚痴を言ってたな。…そういえば、



「お前、シンクはどうしたんだ」



途端に、サクの纏う雰囲気がズンと重くなりやがった。どうやら触れてはいけない話題に触れてしまったらしい。



『……分からないよ』

「は?」

『シンクから特に連絡も無いし、ここの所全然会えてないし…』



避けられてる、気がしないでもない。被害妄想、または単に任務が忙しいか、捜されていないだけの可能性もあるが。



『嫌われて愛想尽かされてたら立ち直れない…』

「いや、それはねぇだろ」



シンクに限っては、とアッシュは思う。アイツがサクに強い執着を持っている事は、前から知っている。否、執着という表現も間違ってはいないが……その根底にある想いは、恐らくアレだろう。…皆まで言わせんじゃねぇよ。それ位察しろ。



「私も同感ですね。シンク師団長に限って、それは無いでしょう」

『何でフレイルまでそう言い切れるの?』

「サク様は悪い方向に考え過ぎですよ」



フレイルから苦笑を向けられ、う〜…と悩まし気に唸るサク。そんな彼女の反応を見て、アッシュは流石に心配になった。



「…全く自覚が無い、訳じゃねぇよな?お前も」

『………いや、シンクにとって私はそういう対象とは少し違うと思うよ』



母親とその子どもに近い関係だと、サクは思っている。シンクが私を慕ってくれるのも、母親に抱く感情…親愛の情からくるものだ。実際、私はシンクの育ての親みたいなものだし(此れはアッシュに言えないけど)。だから、最近シンクと上手くいかないのも、今がちょうどシンクの思春期に該当するからじゃないかとも、少し考えていたりする。まぁ、一番の原因は私自身のせい、なんだけど。そう話したら、呆れた様子のアッシュにため息をつかれた。何故だ。



「お前……本気で言ってねぇよな、ソレ」

『………自惚れて、痛い子になる気は無いよ』



嗚呼、一応そこまで鈍感ではなかったのか。不自然に視線を反らしたサクの反応を見て、アッシュは少しだけ安心する。いや、別に俺はお節介をやく気は無ぇが。ただコイツが無自覚だった場合、シンクの奴が不憫だと思っただけだ。

その時、アッシュはたまたまじっとサクの方を見詰めるフレイルの顔(といっても仮面を着けた状態で素顔は窺えない)を見てしまった。お前もかよ。いや、俺は違うが。そんなアッシュの視線に、フレイルも気付いたらしい。バチリ、とアッシュと視線がかち合うと、フレイルは一瞬罰の悪そうな顔(正格には反応)をし、一つ咳払いをした。



「…それより、今は皆さんの救出方法を考えましょう」

『ん、それもそうだね』



若干微妙な空気の中、ルーク達の救出に向けての作戦会議が漸く始まったのであった。ぶっちゃけ、体よく話題を反らされただけだったりする。



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