生命の樹(5/13)

セフィロトへの入り口が見えて来た所で、再び大地が大きく揺れ始めた。



「な、なんだ!?地震!?」

「違います。これは……」

「危ない!」



ティアの警告とほぼ同時に、頭上から巨大なサソリ(ティランピオン…だっけ?)が降ってきて、一同は散り散りに飛び退いた。ちょ、サプライズエンカウント取られた!!



「来ますよ!」



そのまま陣形を立て直す間も無く戦闘開始になった。帯刀している剣に手を添えながら、フレイルが素早く私の前に出る。



「サク様はお下がり下さい」

『…気を付けて』



一瞬迷った後、今回はフレイルの言葉に従い、イオンと一緒に安全な所に迄下がっている事にした。…魔物の気配に気付けない位気が散ってる状態じゃ、足許を掬われかねない。



「大丈夫ですか?サク…」

『心配してくれて有り難うイオン。でも、大丈夫だよ』



ちょっと考え事しちゃってて……気を抜いてただけだから。そう言って、サクは隣に来たイオンに苦笑を溢した。

戦闘中や危険なフィールドにいる時においては自殺行為だったりする。カンタビレ教官がいたら「たるんでいるぞ!」と叱責されるか腕立てを強制させられる所だろうか。



「…何か、悩み事があるのですか?」

『え?…あー、何て言うか……』

「シンクの事、ですよね?」

『………、』



…こういう時、イオンは鋭いな…と思う。

真剣な瞳のイオンに指摘され、サクは咄嗟に誤魔化す事が出来なかった。…正確には、言葉を失った……と表現した方が良いのかもしれない。

ほんの一瞬……イオンの真剣な表情にシンクの面影を重ねてしまったのだ。シンクとイオンを混同仕掛けた事への、戸惑いと罪悪感。それだけで、今のサクを戸惑わせるのは十分だった。



「……一つだけ、サクに訊いても良いですか?」



皆がティランピオンと戦闘を繰り広げている地点から、更に少しだけ離れた場所で待機する。ここまで下がれば、会話を聞き取られる事は無いだろう。最も、戦闘中に此方の会話に迄気は回らないとは思うけど、一応念の為に…ね。



「あの時ガイをカースロットで操っていた術者は、シンクでした」



術を操れるのは、術を掛けた術者だけ。しかも、カースロットは本来なら導師にしか扱えない筈のダアト式譜術の一種だ。それを扱えるのは、現在は導師であるイオンか私だけ。もし、例外がいるとすれば、刷り込みによる知識がある導師イオンのレプリカだけだ。

……更に例外を上げると、被験者のクロノなども上がるが、話がややこしくなるので今は伏せておく。



「サクがシンクにダアト式譜術を教えたのなら、話は別ですが…」



基本的に、ダアト式譜術の【知識】は刷り込みにより生まれた時から、彼らは持ってはいた。そのただの【知識】を、実戦や感覚の指導を通して、実用レベルにまで完成させたのが私。



「もしもそうで無いのなら、彼は…」

『……私がダアト式譜術を指導したのは、貴方だけだよ。イオン』

「!」



そう答えた私に対してイオンは、ではやはり…と、何か言いたげな表情を浮かべた。

イオンが私に何を聞きたいのかは、分かる。でも……その事を話されるのをシンクが知ったら、きっと嫌がると思うから。私からはこれ以上は何もイオンに言わない。例え、もう既に分かりきった事実だとしても。

イオンも、これ以上は核心に触れても、私は何も言わないと察したのだろう。



「テオルの森でシンクが現れた時……彼は貴女の事を探していました」

『!シンクが…?』



少し驚いて聞き返すと、イオンは頷いた。



「あの時の彼は、ヴァンやモースの命令とは関係無く、彼の私情で貴女の事を探している様でした」



……やっぱり、心配掛けちゃってたんだ。それなのに私は……結果的にとはいえ、彼の不安を余計に煽る様な真似をしてしまった。テオルの森で最後に見たシンクの様子を思い返し、思わず拳を握る。

優しいシンクの事だ。私に怪我を負わせた事に対して罪悪感を感じている可能性は高い。そう思うと……シンクにはかなり可哀想な事をしてしまったかもしれない。



「シンクは六神将ですが、サクの導師守護役でもありますよね?…彼と何かあったのですか?」

『…何かあった訳じゃないよ。ただ、互いに上手く噛み合ってないだけで…』



一体、何処ですれ違ってしまったのだろうか。私が教団を飛び出した時に、シンクに黙って来てしまったせい?その後もシンクにちゃんと説明せずに、彼が見逃してくれるのに甘えて、勝手に行動してたから?



『(全部が全部、今更……って気もする)』



考えれば考える程、思い当たる節が多すぎて。思わず失笑が溢れる。嗚呼、何て言うか……自業自得過ぎだよ、自分。

そりゃそうだよね。やっぱり、シンクには事前に説明しておくべきだったんだ。全部事情を説明して、シンクを説得して……彼が納得した上で協力して貰えるよう、きちんと話すべきだったんだ。

そうしたら、今みたいな事にも、ならなかったかもしれない。



「…すみませんでした、サク。貴女の気持ちを、考えもせずに…」

『?どうしてイオンが謝るの?』

「…今のサクは、とても辛そうな顔しています」



……。どうやら顔に出てしまっていたらしい。イオンにまで心配を掛けちゃうとか、本当に駄目だなぁ私。

音叉を握り直して、一度目を閉じる。でも……だからといって、立ち止まっている訳にはいかないよね。



「しまった!サクっ!!イオンっ!!」

『プリズムソード!』

バチバチバチィッ



焦ったルークの声が此方に届いたのとほぼ同時に、隙を突いて後ろを狙って来たティランピオン(しかもいつの間にか第二形態になっている)を、サクが譜術によるカウンターで撃退する。毒がある尾の先の動きに注意しながら、続けて音叉に収束させた音素を小さく圧縮し、音の弾丸にしてポオンと弾き飛ばした。ティランピオン諸共。



『こっちは大丈夫!このまま一気に畳み掛けるよっ!!』



怯んだ魔物に譜術を叩き込みながら、サクは此方に駆け寄って来るルーク達に向かって叫んだ。



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