生命の樹(7/13)


「完全に降下したようです。パッセージリングにも異常はないですね」



数時間後。制御盤を確認したジェイドの言葉に、ルーク達はホッとしていた。



「よかった。……へへ、何か上手く行きすぎて、拍子抜けする位だな」

「あんまり調子に乗らない方がいいんじゃないですかぁ?」

「……う、それはそうかも」

「お、しおらしいな」



アニスに肘で軽く突かれ、ルークが小さく唸り、ガイは笑った。



「調子に乗って取り返しのつかねぇことすんのは……怖いしさ」



ふと、ルークはティアの表情が冴えない事に気が付いた。



「ティア。んな顔しなくても、俺、もう暴走しねーって」

「ううん。そうじゃないんだけど……」

「きっと疲れたんだよ」



なんだかんだで降下に丸一日以上かかってるもん。とアニスが言った直後……ティアは立ち眩みを起こしたかの様に、ガイの方へよろけた。彼女の傍にいたガイは、咄嗟に手を伸ばし掛け……反射的に、硬直した。そのまま倒れてしまったティアの傍に、慌ててルークが駆け寄る。



「おい、大丈夫か!?」

「ごめんなさい、大丈夫よ」



ルークに抱き起こされ、ティアはぎこちなく笑顔を作る。



「体調管理も出来ないなんて、兵士として失格ね」

「兵士とかそんな事を気にするより、もっと自分の体の心配をなさい!」



ナタリアの剣幕に、ティアは目を瞬いた。



「…本当に、体調はよろしいんですの?」

「あ、ありがとう。でも本当に平気よ」



ここでナタリアや皆から自分が心配されている事に気付き、ティアは若干ふらつきながらも立ち上がった。



「それなら外に出ましょう。魔界に辿り着いているのか確認した方がいいですから」



ジェイドに促され、皆が出口に向かって戻り始める。が、その中に一人……その場に立ちつくす人物がいた。

ジェイドは去り際に、彼に一言だけ声を掛けた。



「……弊害が出ていると考えるなら、原因を探った方がいいですよ」

「………」



返事は無かった。けれど、強く握り締められた拳は…密かに震えていた。彼が抱く感情は、何も出来なかった悔しさか、克服出来ない歯痒さか。

傍にいて、支えてやる事が出来る場所にいたのに。ティアに触れる事を躊躇ってしまった自分自身を、彼は責めているのだろう。

そんな彼の背中を見詰めていたサクは……フレイルに先に行くよう促してから、彼に少しだけ近寄った。



『…ガイ、』

「……情けねぇな、俺。原因はもう分かってるのに……未だに女性に触れるのが恐いんだ」



ポツリ、とガイはそう内心を吐露した。時間が経って、気持ちの整理もある程度は出来ているのだろう。けれど、身体は思うようにはいかない。いくら気持ちに整理をつけても、過去に受けた大き過ぎるショックが……消えた訳ではない。辛い事だが、それだけ、彼が負った心の傷は深いのだ。



『でも、焦ったからといって、治る物でもないでしょ?』

「そうだよな……」



思い出したからといって、治る物でもない。それは、彼自身も理解している事。どうしょうも無いからこそ、彼は歯痒い。



『ほ〜ら!シャキッとしなさいっ』



バシッ、とガイの背中を叩いてやった。突然の事に、かなり驚いた様子のガイに、サクはニッと笑みを浮かべてやる。何気にガイに触れたのは、初めてかもしれない。



『克服するのは、ガイの今後の大きな課題として、先ずは無理せず少しずつ慣れる事から始めた方が良いよ』

「今みたいにか?」

『そうそう』



小さな事からコツコツと!そう言えば、ガイは少しだけ申し訳なさそうに笑った。



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