消えない傷(9/11)


「よかった。お二人が喧嘩されるんじゃないかって、ひやひやしてました」



イオンは椅子に腰を下ろしたまま、ほう…と胸を撫で降ろしていた。仲間達の間にも、漸く安堵の空気が流れ始める。



「さて。いい感じに落ち着いたようですし、明日に備えて今日はもうそろそろ休みましょうか」

「ああ、使者の方から聞きました。セントビナーに行くって」



頃合いを見計らったジェイドの言葉に、アニスが頷く。確かに皆長旅な上に、六神将の襲撃やらカースロットやら皇帝との謁見やらで既に疲労困憊。オマケに今日はもう日も暮れ始めており、出発は明日の早朝に持ち越された様だ。



「でもイオン様はカースロットを解いてお疲れだし、危険だから、私とここに残ります」

「アニス、僕なら一晩も休めば大丈夫です。それに僕が皆さんと一緒に行けば、お役に立てるかもしれません」

「イオン様!?」



イオンの言葉に、アニスが驚く。気丈に振る舞うイオンの表情には、まだダアト式譜術を使った疲れが残っていたが、確かに一晩休めば体力も回復するだろう。崩落の恐れがあり、危険な事に変わりはないのだが……それでもイオンの決意は固かった。



「アニス。それに皆さん。僕も連れて行ってください。お願いします」



イオンの申し出に、ティア達はどうする?という様に顔を見合わせた。ルークは少しだけ思案を巡らせ……口を開く。



「師匠がイオンを狙ってんなら、どこにいても危険だと思う。なら…」

「目が届くだけ、身近の方がマシという事ですか。仕方ないですね」

「もうっ!イオン様のバカ!」



ルークの意見にジェイドが頷き、そう結論を出すと、アニスがむくれた。アニスどんまい。



「ですが、サク様には城へお戻り頂きますよ」

『えー…』

「怪我人を連れて行く程、人員には不足していませんので」



つまり、足手まといだからついて来るなとジェイドは言いたいらしい。なんという戦力外通告!



「貴女も導師である以上、イオン様同様六神将に狙われていますし、今回の様に突然戦線に飛び込まれてはとても危険です。マルクト帝国が、貴女の身柄を保護させて貰います」



そこまで釘を刺されてしまっては、流石の私もぐうの音も出ません。イオンみたいに導師守護役を今は連れてないし……仕方ないか。

残念ながら、私は此処で皆をお見送りするしかない様だ。



「なぁ、サク…」

『ん?何ルーク』

「本当にお前は、ヴァン師匠の仲間じゃないんだよな?」



ルークの真剣な問いに、思わず目が点になる。が、サク以外他の皆もルークと似たような、複雑な表情を浮かべている事にも気付いた。

……そんなに怪しまれてたのか、私は。頭の後ろを掻きながら、どうしたものかと小さく唸る。



『私はヴァンの仲間じゃないよ』



信じてくれるかは分からないけど、否定はしておく。



『私が今回グランコクマに来たのは、ピオニー陛下に個人的な報告があったからだよ。だから、テオルの森でルーク達と居合わせたのは、本当に偶然だった』



う〜ん、何処から話せば良いものか……アクゼリュスの件は今はまだ伏せて置くにしても、ジェイドとピオニーに話した様に、エンゲーブの住民達の事は話す巾かな。皆が疑ってるのは、私がアッシュとは別行動を取った時に何をしていたのかだろうし。

そんな風に悶々と悩んでいると……サクが口を開く前に、何故かルークの表情がホッと安堵したモノに変わった。



「…分かった。俺はサクを信じるよ」

『え、そんなあっさりと?』



随分簡単に信じてくれたけど、良いのか?説明らしい説明だってまだ何もしていないし、私が嘘をついてる可能性も0じゃないのに。

信じて欲しい筈のサク自身がこんな事を言うのもどうかとは思うが。キョトンと、思わず瞳を丸くするサクを前に、ルークは苦笑した。



「サクは俺の事を信じてくれただろ?だから、俺もサクを信じてる」

『ルーク…』



気持ちは嬉しい。けど、他の皆もそれで納得してくれるのかと言われると…厳しい気もする。一番の難関ジェイドは今の所クリアしてるけど……



「導師サクにも、何か理由がお有りなのでしょう?」

『!ナタリア…』

「私も、貴女を信じますわ」



ナタリアに優しく微笑まれ、少しだけ気恥ずかしくなった。周りにいる他の皆を見回しても、皆が私に向ける眼差しは何れも似たようなもので……うん。何だかジェイドの時とは大違いだ。

とはいっても、アニスだけはちょっとだけ複雑な面持ちで、微妙に視線を反らしていたけど。あー…そっか。アニスには、ちょっと辛いよね。騙してる側としては、こういうのを見ちゃうと。



「セントビナーの人達は、俺達が助ける。だから、サクも俺達を信じて…ここで待っててくれ」

『……有り難う、皆』



本当に、ルークはこの短期間で成長したね。自分の意思をしっかりと持って、こうして他人を気遣う様にもなって。…いや、誰かを気遣える優しい心は、前からだったね。その気持ちを素直に表現するのを躊躇っていただけで。

不安が見え隠れする、真っ直ぐな瞳をルークに向けられて、サクは分かったと頷いた。



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