消えない傷(1/11)

剣が弾かれて、体勢を崩しちまった。ガイの刃が迫るのが、やけにスローモーションで見える。死――…という一文字がルークの脳裏に浮かんだ時だった。



ザシュッ



何かがぶつかった衝撃はあったが、痛みは感じなかった。でも、確かに肉を斬られる生々しい音はした。否、それ以前に俺が目を閉じる直前に、何かが俺に飛び付いて来て……

恐る恐る目を開けた視界に最初に飛び込んで来たのは、黒い髪。自身に覆い被さった白い法衣が見る間に赤く染まっていくのを見て……何が起きたのか、ルークは漸く理解した。



「サクっ!!」



シンクが動揺したのか、ガイの動きが止まる。



「姉…上……」



そう呟き、ガイが倒れた。既に発動は解かれたらしい。同時にナタリアの矢が放たれ、肩を掠めた際にバランスを崩したシンクが木から落ちた。



「サク…おぃっ、サクっ!!!」



ルークに揺さぶられる。ちょ…傷口が…開く…

肩から腰の辺りに掛けて、ジクジクと背中が痛むのに合わせて、傷口から血が流れているのが分かる。生暖かい血で濡れた服が肌に張り付いてキモチワルイ。痛みから上手く呼吸も出来ず、むしろ息をするのも辛い位だ。

咄嗟に飛び出しちゃったけど……コレはかなり早まった事をしたかも。



「待って!今回復を……っ、そんな!?」

「どうしましたのティア?」

「治癒術が……っ」



効かない、らしい。

つまり、譜術では手の施しようが無い位重症であると。ティアの絶望的な表情から、自身の状態を推察する。

恐らく、理由はそれだけじゃない。私の身体の構造が音素とは異なるから、効かないのも一理ありそうだ。浅い傷程度なら効くのに深手は駄目という不思議。

ふと遠くから視線を感じて、ソチラを見れば、シンクが此方を見たまま固まってしまっていた。ラルゴにシンク!と名前を呼ばれて急かされるも、動揺しているのか、その場から動けないでいる様子。不味いな…早く逃げないとシンクがマルクト兵に見つかってしまう。



『…大丈夫…私、は…大丈夫だから…』



ルーク達に声を掛けると同時に、シンクにも聞こえるように気持ち大きめの声で話す。き…傷口に響く。次いで、目線で彼にこの場は退くよう促す。



「ごめんっ!俺のせいで…っ」

『…誰のせいでも、無い…よ……』



今にも泣き出してしまいそうな、ルークの悲痛な声。自分を責めないでよ。ルークは頑張ってたじゃん。むしろ、今回のは私の判断ミスが招いた結果であり、自業自得なのだから。

とはいえ、何だか寒くなってきたし意識も朦朧となって来たから、冗談抜きで流石にヤバいかもしれない。



『……っ』

「サク?…サクっ!!」



目を閉じたら、悪い方に勘違いされたようで必死に名前を呼び掛けられる。痛い、そんなに揺すると痛いから!

額に脂汗が浮かぶ中、無理矢理意識を集中させて、第七音素による損傷部位の肉体の再構築を自力で試みる。治癒術が無理なら、此方に懸けるしかない。今の状態では、せいぜい軽く傷口を塞ぐだけの応急処置が限界だけど。

ルーク達が固唾を呑んで見守る中……サクを纏う第七音素が応急処置完了と共に霧散した。



『……傷口は塞いだから、もう大丈夫』

「何だ、お前達は!」



サクの力無い笑顔に、ルーク達が僅かにホッと安堵したのも束の間。騒ぎを聞き付けたマルクト兵達に見付かってしまった様で、ルーク達は彼等に取り囲まれてしまった。



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