ローレライ大祭(5/7)

教団の私有地である森のわりと奥深く。そこでシンクはよく鍛錬を積んでいる。所謂、修行というやつだ。

アッシュと別れたサクも、現在そこに向かっていた。まぁ、教団の私有地とはいえ、森だから希に野生の魔物とか"不届き者"なんかと出会す時もあるけどね。その度返り討ちにしてるから問題はない。

何時もの場所に来たけれど、予想に反してそこにシンクはいなかった。



『あれ?今日はここじゃ無かったのかな』



……というのは冗談。どうやら彼は上手く気配を消して、近くの木の上から此方の様子を伺っている。

かくれんぼかい?(多分違う)残念ながら、私の背中に隙は無いぜ!なので、わざと無防備な隙を見せてみる事にした。



ガサッ

「タービュランス!」

ブワッ



茂みから気配がして、振り返るのと同時にシンクが飛び出して来た。ご丁寧に譜術付きで。お、前よりもスピードが上がってる。譜術との併用が上手くいってるんだね。でも…



『まだ、譜術を放ってからの切り返しが甘い!』

「っ…!?」



サクが譜術を相殺し、着地したシンクが再び一歩踏み出そうとした彼の目の前にビシリと音叉を突き付けた。彼の動きがピタリと止まり、表情が悔し気に歪む。

ちなみに、シンクの身のこなしは既に常人では決して追えない速さの域に達している。そんな彼を遅いと称する彼女は……うん。深くは考えないでおこう。



「…ここには来ちゃダメって、前にも言わなかったっけ?」

『でも発動は以前より早くなったし、ダアト式譜術もすっかりモノにしたね』

「シカトしたら僕が流すとでも思ってるの?」



不毛な気もする会話(しかも成立していない)をシンクと交わす一方で、サクは内心感心していたりする。

現時点で、シンクの実力は相当なモノだ。

体術と譜術を併用した戦闘スタイルを、上手く体得している。この短期間でここまで成長するとは……シンクは頑張り屋さんだからね。私の知らない所でも、相当訓練を積んだに違いない。



『じゃ、早速行こっか!屋上』

「…は?」



いきなりサクがそんな事を言い出した。話の前後が無い上に、本人も本当に今思い付きましたって様子だ。



『頑張ってるシンクへ差し入れにマドレーヌ焼いて来たの。せっかくだから一緒に食べようと思って』

「話が見えないんだけど…」

『差し入れ持って来たから屋上で一緒に食べよ!……って話何だけど』

「そっちじゃなくて、何でわざわざ屋上に行くのか訊いてるんだけど」

『きっと眺めが良いよ〜』

「答えになってないし。ていうか…」



教団に屋上なんて無かったよね?という僕の記憶は間違っていない筈だ。

事実、僕の記憶は間違って等いなかった。

屋上なんて無いから、教団本部で一番高い塔に登って、それで終わりだと思った。が、サクはそれだけで終わる奴じゃ無かった。



『よし。ここからはちょっと跳ぶよ?』

「?跳ぶって…!?」



フワリ、と足許から緩やかに吹き上げてきた音素を感じて視線を下げると、僕とサクの足許には布陣が描かれていて。既に発動しかけのソレに驚いてサクの顔を見上げるのと、サクが隠し譜陣を発動させたのはほぼ同時だった。



『はい、到着ー!』



一瞬の浮遊感の後、サクの軽い声に目を開けると、眼下にはひたすらダアトの街並みが広がるそこは、いわゆる屋根の上だった。うわ、何コレここ危険過ぎ!!



「今の譜陣の仕掛けって、まさか…」

「こっそり私が作りました!」

「何勝手に教団施設を改造しちゃってんの!?」

『大丈夫。最高指導者は私だよ?』



駄目だ。やっぱりサクに言うだけ野暮だ。

あんな危険過ぎる仕掛け…しかも、発動出来るのは導師(自分)だけだから大丈夫とか……全然大丈夫じゃないよ。創世歴時代の貴重な遺産に何をしているんだ。……いや、聖堂の天井を吹っ飛ばしてる時点でもう色々手遅れか。

ちなみに、その吹き飛ばした聖堂の天井は、先日サクがこっそり一晩で直したらしい。どうやったのか詳細は不明。大詠師がローレライの奇跡だ!とか始祖ユリアの思し召しに違いない!とか意味不明な事言って騒いでたっけ。…馬鹿過ぎる。しかもかなりどうでも良すぎる事を思い出してしまった。



『どうしたのシンク?苦虫を噛み潰したみたいな顔して……何か悩んでるの?』

「馬鹿の奇行とサクの暴走について」

『(馬鹿って誰だろ?)失礼な。全部確信犯なのに』

「尚更頭が痛いんだけど」



本当に、サクの悪戯はタチが悪い。いや、もう悪戯で済む領域を超えてる気もする。何処が一番見晴らしが良いかな?なんて呑気に呟くサクを見ながら、シンクはため息を溢した。



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